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『ケロッグ大学大学院 モーニング・セッション「日本から米国、そして世界への挑戦~サイボウズからLUNARRへ~」』

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更新日 : 2008年10月24日 (金)

第5章 情報共有の概念を変える

アカデミーヒルズで開催したケロッグ大学大学院 モーニング・セッションの様子

高橋英伸: LUNARRが開発しているソフトウェアについて少しお話していただけますか?

高須賀宣: LUNARRを始めたのは、既存の情報がどうつくられて、どういうふうに共有化されて、どういうふうに仕事に活かされているかということに注目したことがきっかけでした。

情報をつくってセーブすると、ウェブ上かローカルのパソコンの中にストアされます。それを利用しようとすると、サーチしないといけない。さらにコラボレーションするためにはシェアしないといけない。シェアするとそこでまた新しい情報が生み出される……というようなサイクルになっています。

僕はここに、「位置エネルギー」という根本的な問題を感じたのです。データをセーブしたとたん「位置エネルギー」を失って暗闇の中に落ちていく。暗闇の中から引っ張り出すには「位置エネルギー」を与えないといけないので、そこにテクノロジーやナレッジ、お金が集中しているのです。さらに誰かとシェアしようと思うと、また「位置エネルギー」を与えてあげないと、コラボレーションは生まれない。絶対量が増えていくわけですから、位置エネルギー問題はもっと拡大していきます。

ここに構造的な問題が存在しているというふうに見たんですね。そうすると局所的に対処していってもだめで、抜本的に変えないといけない。そこで、「コンテンツ」と「コンテキスト」(※編注:文脈)というふうに情報をカテゴライズして、これを結合することで構造的な問題を打破できると考えたのです。

つまり、すべての情報に裏面をつけてしまえ、と。とりあえず最初は、コンテキストの代表格であるメールにしてみました。

どんな感じかというと、例えばグーグルのワープロソフトやスプレッドシートで何か書くとします。デスクトップ上で普通に打ち込むわけですが、我々の場合、ここに持ち込むと、裏がひっくり返って、それがメールになっていて、そのデータを飛ばせるんです。こういう世界をつくろうと考えました。これがコンテンツとコンテキストをコンバインするということです。これによって情報共有のあり方が変わる。メタ情報を自動的に付加し、さらに生産性、創造性を高めるインフラになる。

まだβ版での公開ですが少しソフトを説明すると、表にはグーグルのスプレッドシートでもパワーポイントでもエクセルでもワードでも何でも貼ってもいいんです。スクラッチでも既存のものでも何でも。で、右上に出てくるドッグイヤーをクリックすると、画面がひっくり返ります。ひっくり返ると裏はメールになっているので、人とやりとりすることができるんです。(※編注:LUNARR, Inc.のサイトで解説動画が見られます)

また、ドキュメントの変更状況をトラックしているので、「誰が、いつ最後にこのドキュメントを見たのか」「誰がこのドキュメントに関係しているのか」といったような付帯情報が分かる。そういう付帯情報が裏面にどんどん付けていく世界をつくろうとしています。

デジタルの世界で情報共有するパターンとしては、今この世の中に、「コモン型」と「シェア型」の2種類しか存在していません。

コモン型というのは、掲示板などインターネット上にある1つの情報に対して人が集まってくるというパターン。場があって、そこに集まっていく、それでその全て情報を共有するパターンです。もう1つは電子メールのように人に分配していくという、コピー&ディストリビューション型です。

唯一LUNARRだけが、このどちらでもありません。フロント・バックという概念がそこに存在していて、フロントは人が集まるパターンで、裏はディストリビューションするパターンなのです。

これによって今までとは違う、「単一のドキュメントが移動していく」という新しい情報の概念が生まれます。表現としてはまだまだこれからなのですが、来年(2009年)あたりさらにバージョンアップして、ちょっとずつ世に問うていきたいと思っています。

世の中は、すでにコンテキストに重要性があると見ていて、その1つがブロガーだと思います。コンテンツというのはいろいろな材料から引き算的に編集して1つの記事が生まれていくのですが、ブロガーが提示している世界は足し算的なんです。

そこにスピード感があり、「合っている、いや間違っていた」みたいな、前後の話も含めたものに対して、読者は価値を認めている。コンテンツだけでないコンテキストに価値を求め始めているという動きが、もうすでに起こっているんです。

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