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「政治と秋刀魚 日本と暮らして四五年」

BIZセミナーその他
更新日 : 2008年08月04日 (月)

第5章 防衛にはハード面の軍事ではなく、ソフト面の交流が必要

ジェラルド・カーティスさん


ジェラルド・カーティス: 私は大学で音楽家になるのを諦めて、社会科学を勉強して、それでコロンビア大学の大学院に来ました。あのころは、地図で日本がどこにあるか示すこともできなかったぐらい、日本のことは何も知らないし、特に興味もありませんでした。

1年間、コロンビア大学の大学院でマスターコースだけやろうと思ったのですが、1年生で、国際政治のゼミをとらなければなりませんでした。先生は2人いたのですが、たまたま2人ともアジアの専門家で、1人が日本の専門家、モーリー先生で、もう1人は中国の専門家のボーグ先生でした。2人のゼミをとったのですが、何を勉強すればいいのか分からなかったから、モーリー先生に聞きました。そうしたら「戦前の最後のアメリカ駐日大使、10年間日本にいたジョセフ・グルー大使について論文を書きなさい」と言われました。それが私の日本研究の始まりでした。

そうして書いた論文が、ときどき何も知らない人の方が新鮮な見方をすることがあるからでしょう、モーリー先生から見れば面白いということになって「君は何をしたいのかわからないようだから、博士課程の学生になって、日本の勉強をしてみたらどうか。多分、奨学金をもらえるだろう」と勧めてくれたのです。1963年にケネディ大統領が暗殺された1年後の話です。

ソ連がスプートニクという宇宙船を打ち上げて、アメリカに大きなショックを与えたのが、1957年です。1960年にケネディが大統領になったとき、「アメリカの防衛のために、やはりもっと外国のことを知る必要がある。フランス、スペイン、ドイツといった伝統的にアメリカ人が勉強する外国語だけでなく、例えばロシア語、中国語、日本語などを勉強する学生を育成することが、アメリカの防衛のために重要だ」という発想で、彼は国防教育法「National Defense Education Act」という法律をつくりました。私が日本語を勉強できたのは、私はこのNDEAの奨学金のおかげです。

しかし、アメリカもだいぶ変わってきました。例えば今、中東はテロリズムなど大変な問題が多い。アルカイダはもともとサウジアラビアのオサマ・ビン・ラディンが中心ですが、今のアメリカ政府はアラブ語を勉強するための支援をほとんど出していません。昔、私が若かったころは、国防のために言葉を勉強することが大事だと思われていました。

私は外国のことを知るだけではなく、外国に日本のことを知らせる、これが日本の国防につながると思っています。だから福田首相は早く日本国防教育法をつくって、日本のソフトパワーをもっと世界に発信するべきです。

国際交流基金はすばらしい仕事をしているのですが、その予算はイギリスの相当する組織と比べたら18分の1で非常に少ない。ケネディ大統領のおかげで、私は日本語が勉強できるようになりましたが、軍事面などのハード面ではなくて、ソフトの面での交流で日本のことを世界に知らせる、今の日本にはこういう発想があってしかるべきだと思います。