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突き抜けるアート ~社会と人をつなぐもの~

変容するアートが人を変え、世界を変える:猪子寿之×津田大介

更新日 : 2015年12月02日 (水)

第2章 1つの街をそのままアート空間へ

猪子寿之 (チームラボ代表)

 
呼応する木々

猪子寿之: これは2014年秋、長崎県のハウステンボスで開催されたイベント「秋の光の王国」に合わせてつくった「呼応する木々」です。運河沿いに並んだ木々に人が近づくと、ライトアップの色が様々に変わり、それに呼応して、両隣や対岸の木々も色を変えていく。さらに、色の変化に呼応してそれぞれの色に合わせた音色が響きます。

<Resonating Trees/呼応する木々>
http://www.team-lab.net/all/art/resonatingtrees.html

津田大介: こちらもとても美しいですね。従来のイルミネーションとはまったく別物というか、より立体的な感じがします。これはどのような仕組みなのでしょう?

猪子寿之: 木の根元からライトアップしており、人が木に近づくとセンサーが反応して色が変わり、その変化を両隣や対岸の木々にも通信していく。こちらから歩く自分、向こうから歩いてくる人、対岸を歩く人などのふるまいに合わせ、500mほどある並木道のライトアップが次々と変化していきます。

津田大介: 運河の水面にも光が映り込み、とても良い感じです。キャナルシティ博多やハウステンボスの作品は、最初のコンセプトづくりから完成まで、どれくらいの期間がかかっていますか?

猪子寿之: 3カ月か半年ぐらいでしょうか。元々、ハウステンボスの運河沿いには素敵な街灯がありましたが、ライトアップで十分な照度が保たれるため、街灯は消してしまいました。つまり、アート作品でありながら、街灯というパブリックな役割も果たしている。

さらに言えば、運河も並木道も、元々からそこにあったもの。その素材はそのままに、音と光を加えることで、運河沿いの並木道が1つのアート作品に生まれ変わったわけです。普段、街中を歩いていると、公園やビルの下などにアート作品が置かれていますが、それとはまったく違う。

津田大介: “街の中”にアートがポンと置かれているのではなく、“街そのもの”がアートになるというコンセプトなんですね。

猪子寿之: そうです。僕はいつか、大きな街を丸ごと1つアート作品にしたいと思っていて。

津田大介: そう考えると、日本には候補となり得る場所がたくさんありそうです。中でも猪子さんが注目する場所はどこですか?



猪子寿之: 人がほとんど、あるいはまったく暮らしていない場所を買い上げ、アートに変えたい。

津田大介: 買い上げますか(笑)。それが実現すれば、チームラボのイベントのように、たくさんの人が訪れるでしょうね。

猪子寿之: そうなれば、チームラボが手掛けた建売住宅を売り出します。例えば、そこに暮らす誰かが街灯を触ると、通りに並んでいる街灯がポンポンポンと順番に光る。それに呼応して、一家団らんでテレビを観ている家の照明がパーンと赤く光り、同じことが近隣の家にもポンポンポンと移っていく。

津田大介: それはたしかにステキですけど……、人間らしい落ち着いた暮らしができませんね(会場笑)。

猪子寿之: 世界は70億人もいますから、アートの中で暮らしたい人も必ずいるはず。

津田大介: たしかに。現代美術家の荒川修作さんが手掛けたユニークな家で暮らす人もいるわけですからね。

猪子寿之: そもそも、誰も暮らしていない場所であれば、文句を言う人はゼロ。暮らしたい人だけが集まるはずです。

津田大介: セカンドハウスとして購入し、時々遊びに行くという使い方もありですしね。

猪子寿之: さらに、信号機の点滅も制御して、ポンポンポン、パーンと光るようにする。信号機というパブリックな機能はそのままに、もっと面白くする。その信号機も売り出します。

津田大介: それは面白いですが、実現するとなると、道路交通法など乗り越える壁がたくさんあると思いますが?

猪子寿之: だから、土地だけでなく、その場所にあるものを丸ごと買い取り、私有地にしてしまう。私有地でありながら、道路や信号機、公園といったパブリックなものはそのまま残して、すべてアートに変えてしまう。

津田大介: わかりました! つまり“猪子ランド”をつくるんですね(会場笑)。

猪子寿之: 僕が説明すると下品に聞こえますが(笑)、実際に体感すれば、案外ロマンチックな街だなと思うはずです。

津田大介: たしかに素敵な街になると思います。“猪子ランド”が完成したら、定住するのは少々難しいと思いますが、「行きたい!」という人はたくさんいると思います。



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六本木アートカレッジ 突き抜けるアート~社会と人をつなぐもの~

世の中に新しい価値を送り出すウルトラテクノロジスト集団チームラボ代表、猪子寿之氏と、政治・経済・カルチャーなど独自の視点で発信している津田大介氏がアートの可能性を語ります。