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ダンディズム~男が憧れる男、女が憧れる男

粋、男らしさ、そして生きざままで

更新日 : 2018年11月20日 (火)

第5章 女性たちが求めるダンディズム

男前、いい男、できる男

澁川雅俊: ダンディは、男性だけのものではありません。世の女性たちもまた、ダンディをお好みのようです。女性が求めるダンディの具体的な要件が示された本を、いくつか紹介しましょう。

「101人のオトコマエと話してわかった97の法則」との副題が付いた『1日1分! 読むオトコマエ術』〔滝悦子/新水社〕は、各界で活躍する2,000名以上の著名人にインタビューを行ってきた著者が、101人のエピソードを紹介しています。その上で「彼らは皆、コンプレックスを抱えた小さな存在から出発し、毎日地道に自分を磨き、やがて‘オトコマエ’な人生を手にした」と確信し、数々の基本条件を列記しています。


中州の老舗クラブのママによる『頭角をあらわす男 70の流儀』〔藤堂和子/ロングセラーズ〕は、50万人以上の男性を見てきた店主が‘いい男’の要件を指摘しています。また、銀座のクラブのママは『粋な人、無粋な人』〔伊藤由美/ぱる出版〕のなかで、「見栄を張って自分を大きく見せようとしていませんか?」「きれいに身銭を切っていますか?」など、人間観察のプロが考える‘大人の男’について論じています。夜の街は「粋とダンディズムを磨く場所」とありますが、女性の厳しい目があるからこそ、ダンディな男性が育っていくのでしょう。


『なぜいい女は「大人の男」とつきあうのか。~一流の男のダンディズム』〔中谷彰宏/秀和システム〕では、男性の眼から見た女性好みのダンディズムを解説しています。つまるところ、「ダンディな男の優しさにいい女が惚れる」ということなのですが、さて、それらにどう応えられるでしょうか。


「女性が思う理想の男性」を知ろうとするのなら、宝塚歌劇団の男役からもヒントが得られるでしょう。『タカラヅカ・ハンドブック』〔雨宮まみ、はるな檸檬/新潮社〕によると、宝塚の男役が現代日本では失われたダンディズムを引き継いでいる、とのこと。たしかに、世の多くの女性を感嘆させているわけですから、十分に説得力のある意見です。


男らしさへの憧れは古代から

澁川雅俊: 今回のブックトークのテーマを決めたきっかけは、『男らしさの歴史』〔アラン・コルバンほか/藤原書店〕を手にしたことでした。全3巻、しかも各巻とも700頁以上の大著です。強健な肉体、勇気、判断力を備えたダビデやスパルタ市民のように、完璧な者たらんとする心情や肉体への憧れは、すでにギリシア時代には表れていました。本書では、男らしさへの憧れが時代とともに変化してきたことを、政治、経済、軍事、社会、文化の面から微細かつ克明に考察しています。


ダンディは、こうした歴史の流れから生まれたものだと思いますが、本書ではとりたててその点を論じてはいません。なぜなら、本書では男らしさについて、個人的な美徳を超越し、社会を治める価値観の基盤となり、新たな世界を築き上げる行動であるべきだ、と認識しているからです。「ひとは男に生まれるのではない、男になるのだ」という文言は、そのことを端的に表しています。

『男らしさの歴史』は、監修者が邦訳序文に記しているように、西欧社会を立脚点として編纂されています。一方で、日本でのカウンターパートに当たるのが、『男性史〈1~3〉』〔阿部恒久ほか編/日本経済評論社〕です。もっとも、この本は近現代日本史のなかで、男性とは社会的に作られたものだという視点に立って、男らしさを問い返そうとしています。


ダンディ、あるいはダンディズムとは何なのか? どのように変化してきたのか? それはいまや忘れ去られ、消滅し、過去の遺物となったのか? はたまた、新たなアイデンティティを創出し、さらなる変貌を遂げてゆくのか? ここまで古今東西の本を取り上げてきましたが、その答えを読み解くことはなかなかにして容易ではないようです。(了)

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