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日本元気塾セミナーリーダーの本質とは? そして、東京2020へ!

変革を成功に導く“独裁力”/川淵三郎×米倉誠一郎

更新日 : 2018年03月13日 (火)

第3章 不可能を可能にした“独裁力”



悪しき慣習や前例、しがらみは全て断ち切る

川淵三郎: この改革にあたり、僕は海外のプロリーグについて勉強し、徹底的に“理論武装”しました。また、「競技団体やプロリーグは何のためにあるのか?」と自問し、日本代表の強化や競技力の向上、地域密着、社会貢献など、新リーグの基本的な理念やビジョンを導き出しました。その上で誰にも相談せず、新たなプロリーグの「あるべき姿」を私案として作り、次の会合でぶち上げたのです。

1部、2部、地域リーグというピラミッド型のリーグ構成。チームの独立法人化と財務の透明化。1部のチームは5,000人(2部は3,000人)以上収容のホームアリーナを確保し、ホームゲームの8割を開催することなど。こうした要件を示し、「新たなプロリーグは従来の延長線上ではなく、従来とは次元の異なるリーグ、新たな価値を生み出すリーグにしなければならない!」と宣言しました。

すると、「8割開催など無理」「下部リーグに落ちたらチームが潰れる」といった声が挙がりました。現状だけを見れば、そう思うのも当然でした。自治体が管理するアリーナは様々なスポーツやイベントで使われるため、予約もままならず、従来のチームは7、8会場を点々としながら試合をしていました。年間30試合のうち、1つのアリーナで8割(24試合)を行おうとすれば、優先使用権を得るために自治体トップと直接交渉することが重要になります。

また、全国に80カ所あった3,000人以上収容のアリーナを調べてみると、6割以上が土足厳禁、物販禁止。これでは試合を「観る」「楽しむ」ためのアリーナではなく、ただの体育館です。集客につながるエンターテインメント性の向上が大きな課題だと感じました。また、僕がNBLの試合を見に行くと、観客数は400~500人ほど。実業団チームでは、チケットの大半はチームの運営企業が購入し、社員や関係者に配っていました。

プロスポーツの最大の指標は、観客動員です。プロたる者、お金を払って観に来る人がいてナンボであり、その収入が経営の土台となります。とはいえ、アリーナは毎試合、全ては埋まりません。そのため、最初に大きい器を用意し、8割方埋まると想定して数字を弾き出します。バスケットボールの場合、5,000人のアリーナが8割埋まれば4,000人。年間30試合なら12万人。入場料を平均3,000円とするなら3億6,000万円の収入になり、ここにスポンサー収入などを加えれば、5億円程度になる。Jリーグの経験を踏まえ、この金額ならプロチームが運営できると試算しました。

こうした根拠を示しても、まだ反発する人がいました。しかし、僕は知っていました。Jリーグでは鹿島アントラーズを筆頭に、クラブ関係者や地域の方々の熱意が自治体トップを動かし、素晴らしいスタジアムが誕生したことを。地域密着を実現しているクラブは、下部リーグに落ちてもスポンサーやファンが離れないことを。本気になれば、バスケットボールでも同じことができる。そう確信していた僕は、再び一喝しました。

「ガタガタ言わず、首長と直接会って、プロバスケットボールの魅力や社会的意義を必死に伝えてきなさい!」。1カ月後、約20のチームが首長の了解を取り付けた書類を持ってきました。本気になればできるのです(笑)。その後も僕は、各チームの代表者や自治体の首長などと何度も対話を重ね、既成概念に縛られた意見は全て一蹴し続けたことで、空気が変わり始めたのです。

従来のバスケットボール界には、おかしいことを「おかしい」と言える人がいなかった。前例踏襲で思考停止に陥り、様々なしがらみもあるから物事が前に進まなかった。その点、部外者である僕は、おかしいことを素直に「おかしい」と言えた。前例やしがらみを簡単に断ち切ることができ、人に嫌われることも怖くなかった。そして、僕には確たる理念やビジョン、信念があり、絶対に改革を成功させるという覚悟もあった。

さらに猶予は5カ月しかないため、走りながら考え、改善を重ね、決断しました。「独裁」と言われていますが、各現場のプロから出てきた優れたアイデアはすぐに取り入れ、任せる部分は大胆に任せるなど、一切立ち止まらず、やるべきことを全力で実行し続けました。

そしてB.LEAGUE開幕へ



川淵三郎: 2015年4月には、新たなプロリーグを統括・運営する団体として、公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ(JPBL)を設立。同時に、両リーグに所属する全47チームが既存リーグから脱退し、JPBLへの参加を表明しました。さらに、ガバナンス改革にも着手し、JBAの全理事・評議員を辞任させ、新たな人材へと刷新し、再スタートを切りました。こうしたアクションが評価され、同年6月、FIBAの制裁が解除されると、B.LEAGUE創設への勢いは一気に加速しました。

2016年9月22日、東京の代々木第一体育館でB.LEAGUEが開幕し、テレビや新聞などのメディアでもたくさん取り上げられました。初年度となる2016-2017シーズンの総観客動員数は226万人。従来は2つのリーグを合わせても120~130万人だったことを考えれば、上々のスタートを切ることができました。

「不可能」と言われたリーグ統合を実現し、JBAのガバナンスを立て直し、B.LEAGUEがスタートした。しかし、挑戦はまだ始まったばかり。バスケットボールを知らない人に、その魅力をどう伝えるのか。どうすれば、アリーナの快適性を高め、楽しい体験を提供できるのか。どうすれば、「また観に行きたい」と思ってもらえるのか。こうしたことを愚直に考え続けていくことが、B.LEAGUEの理念やミッションの実現につながっていくと考えています。


該当講座


川淵三郎氏が語る、リーダーの本質とは?そして、東京2020へ!
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川淵三郎(日本サッカー協会キャプテン)×米倉誠一郎(日本元気塾塾長)
「解決できるのは僕しかいない」
「国内に分裂している2つのバスケットボールリーグを統合してほしい」6か月以内に国内リーグを統合しなければ、リオ五輪予選への出場が認められないという逆境下で、2016年秋にプロバスケットボール新リーグ、B.LEAGUE開幕へと導いた川淵氏が発揮したリーダーシップとは?波乱の統合劇で川淵氏を突き動かした原動力について語って頂くとともに、2020年東京オリンピック・パラリンピックはどうあるべきか、そして次世代の人材を育成する指導者として、いま考えることについて迫ります。


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