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人事制度の改革なくして「働き方改革」はできない!

日本企業に求められる人事改革のあり方とは?

更新日 : 2017年09月19日 (火)

第2章 人事のプロが考えるダイバーシティとは?


「社会」「従業員」「経営」の3本柱


有沢正人: 現在はカゴメの企業理念「開かれた企業」の実現、さらに、持続的に成長できる「強いカゴメ」を創るための成長戦略として、ダイバーシティの推進に取り組んでいます。その推進にあたっては、「社会」「従業員」「経営」という3本柱で臨んでいます。企業である以上、収益を上げることは大きな目的です。そして、収益が上がれば、従業員の給料が増え、それが消費に回り、税金も増える。こうした好循環を生み出すことで、「社会」に貢献しようとしています。

また、企業にとって最も重要なのは「従業員」です。女性も男性も、一人ひとりが豊かな生活を送り、高いパフォーマンスを発揮し、末永く活躍してもらうため、産休や育休、時短勤務は性差にかかわらず活用できるようにしました。

もう1つ大切なのは、「納得感のある公平な評価・報酬の実現」。私は「平等」が嫌いです。全てを平等にすれば、きちんと働いた人もそうでない人も、同じ給料になりかねないからです。「頑張っても、どうせ報われない」と従業員が思った瞬間、会社は潰れます。だからこそ、誰もが納得できる公平な基準を設け、ドラスティックに差をつける。言わば“equal”と“fair”の違いです。

最後は「経営」です。カゴメの商品の購入者は女性が多い。しかし、私が入社した頃は課長が274名いた中で女性は4人。部長は83人中2人、役員はゼロ。また、全ての女性管理職が中途採用で、プロパーはゼロ。お客様の特性を考えた場合、これはおかしな状況です。そこで、きちんと評価した上で女性管理職の積極的な登用を進め、現在は女性課長が16人に増えました。なかなか一足飛びにとはいきませんが、女性が活躍する状況を「当たり前」に変えていくことも人事の仕事です。

とはいえ、「ダイバーシティ」を単なる女性活用だと思い込んでいる人は、大きな間違いです。その本質は、従業員の多様な価値観を認め、それぞれの特長を引き出し、最大限に機能させることにあります。多様であればあるほど、それらをつなぎ合わせることができれば、組織のパフォーマンスが最大化し、企業としても大きな付加価値が創り出せるからです。


人事改革にはソフトとハードが必要



有沢正人: 人事改革には、ソフトとハードの双方が必要です。ソフトとは、従業員のマインド、信頼、共感、尊敬など、マネジメントやコミュニケーションの土壌となるもの。ハードとは、仕組みや制度、言うなればパソコンのOSに当たるもので、それは自由度が高いほどいい。複雑すぎると、ソフトの動きが悪くなります。

ソフトの改革では、例えば、従来の階層別研修のあり方を見直しました。こうしたものは大概、同期が集まって旧交を温め、終了後は飲みに行ってしまうから(笑)。マネジメント研修をはじめ、3年目、5年目といった年次別研修もやめました。代わりに、一人ひとりが豊富な講座の中から自由に選べる選択型研修制度を導入しました。「会社は場を用意しますが、自分のキャリアは自分で考え、自分でつくってください」ということです。

一方、ハード(仕組みや制度)の改革においては、1つ忘れてはならないことがあります。それは、人事にとってのクライアント(従業員)が使いやすいものをつくること。人事の仕事は、様々な仕組みや制度づくりを通じて、経営の土台となる「人」を成長させることが目的となります。つまり、人事戦略は、経営において最も重要なカギを握っているのです。


グローバル人事制度への第一歩

有沢正人: 私は2012年春、カゴメに入り、10月に人事部長になりました。最初の半年間は「特別顧問」という肩書きで国内外の拠点を全て回りました。アメリカの関連会社を訪れた際、現地のCEOが最初に言ったのは「日本から人事担当が来るのは初めてだ」。他の拠点でも同じことを言われました。

また、オーストラリアの関連会社を訪れ、マネージャーの評価シートを見せてもらうと、目標の欄に“Meet many people.”とあり、成果の欄には“Met many people.”とあった。さらに、上司の評価欄には“Congratulations. You met many people.”とあり、5段階評価の5つ星。これを見た瞬間、腰が抜けました(笑)。そのため、各拠点に人事担当者を置くようにし、併せて新たな人事制度を導入し、評価の仕組みも刷新しました。

その後は、2年かけてグローバル共通の職務等級制度(ジョブグレード)を構築し、順次導入していきました。これによって、日本の那須工場長と、オーストラリアの工場長ではどちらのランクが上なのか、といったことも分かるようになりました。ジョブグレードを世界共通の「ものさし」で見られるようにしたことで、個人がキャリア形成を考える際もグローバルの視点で検討できるようになり、人材配置を考える際も、世界を基準にして適材適所を考えられるようになったのです。


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今回のビジネス・チャレンジ・シリーズでは、カゴメ株式会社で人事最高責任者として同社の評価制度の変革を遂行してきた有沢正人氏をゲストにお迎えし、「働き方改革」時代の企業の人事評価制度の在り方を議論します。


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