記事・レポート

サイエンスシリーズ~宇宙の最前線

宇宙はどのように始まり、これからどうなるのか?

更新日 : 2016年08月03日 (水)

第5章 宇宙の未来、宇宙の終わりはどうなるのか?


 
重力に逆らう謎のエネルギー

小松英一郎: 今度は、宇宙の未来について考えてみましょう。

まったく物質の存在しない空っぽの宇宙があったとすれば、それは一定の速度を保ったまま、膨張し続けます。それでは、物質がある宇宙はどうなるのか? 従来は2通りの考え方がありました。1つは、物質の重力に引っ張られ、宇宙の膨張は次第に緩やかになるものの、未来永劫膨張は続くというモデル。もう1つは、物質量が多すぎて、ある時点から緩やかな膨張は収縮に転じ、いずれ宇宙は小さくしぼみ、最後は潰れてしまうというモデル(ビッグクランチ)です。

しかし、WMAPの観測データを調べたところ、宇宙の膨張スピードは緩やかになるどころか、ますます加速していました。僕が高校の教科書で習ったことと、まったく違います(笑)。その理由は、もはや物質では説明できません。重力は物質を引き寄せます。一方、重力に逆らって物質を「引き離す」エネルギーがある。正体不明の暗黒エネルギーが、宇宙の膨張を加速させているとしか考えられません。

僕達が暮らす地球は100%物質でできており、重力があります。そのため、当然ながら地球上でリンゴを放り上げると、ちゃんと落ちてきます。それでは、暗黒エネルギーが影響する場所ではどうなるのか? 放り投げたリンゴは、速度を上げつつ、そのまま遠くに飛んでいってしまいます。

1998年に、十数個の超新星の距離の測定から、暗黒エネルギーがありそうな兆候は見えていました。しかし、2003年にWMAPの調査結果を見るまで、こうしたことが起こっているとは、研究者は真剣にとらえていませんでした。やはり、宇宙は我々の想像をはるかに超えています。暗黒エネルギーの正体は、宇宙論における最大の謎と言われていますが、それを解き明かしていくのが僕達の役割であると考えています。

 
宇宙の破滅的未来

小松英一郎: 暗黒エネルギーの正体が分からなければ、宇宙の未来がどうなるのか、正確なところも分かりません。現時点では色々なシナリオが考えられます。今現在の地球では、暗黒エネルギーの影響はありません。この先も暗黒エネルギーの量が変わらなければ、僕達はずっと変わらず安泰です。しかし将来、もし暗黒エネルギーの量が増えていくようなことがあれば、いずれ地球上でも、放り投げたリンゴが加速しながら飛んでいってしまうような状況も起こり得ます。

暗黒エネルギーが宇宙の将来に与えうる影響に関する現在の観測の誤差範囲は10%ほどですが、この誤差の範囲ではどのシナリオも起こり得ます。リンゴが飛んでいくシナリオの先にあるのが、「ビッグリップ」(Big Rip)です。Ripとは「引き裂く」という意味です。

要は、宇宙が膨張するとともに、暗黒エネルギーの量がどう変化するかがカギです。地球上の物質量は宇宙が膨張しても変化しませんが、もし地球上の暗黒エネルギーの量が時間とともに増大すれば、いずれ暗黒エネルギーによる斥力が重力による引力を振り切って、地球はバラバラになります。同様に、星々の重力によって集まっていた銀河系や太陽系の星々は重力を振り切って軌道をはずれ、外に向かって飛び出していき、やがて銀河系や太陽系が解体・消滅します。さらに、星自体も1つに固まっていることができなくなり、バラバラに砕け散ります。

最終的には、1つひとつの物質が分子・原子レベルまで引き裂かれ、素粒子に戻ります。これが、暗黒エネルギーによって引き起こされるかもしれない宇宙の破滅的未来です。

しかし、このシナリオはあくまでも1つの可能性ですからご心配なく。たとえビッグリップが起こるとしても、それは約1,000億年後だと考えられています。




該当講座


六本木アートカレッジ 宇宙論の最前線〜私たちは宇宙をどこまで理解したのか〜
六本木アートカレッジ 宇宙論の最前線〜私たちは宇宙をどこまで理解したのか〜

小松英一郎(マックスプランク宇宙物理学研究所所長/カブリ数物連携宇宙研究機構上級科学研究員)
宇宙の“始まり”や“終わり”とはどのようなものなのでしょうか? そして宇宙を構成している成分は何か? 宇宙の進化とは? これらを研究するのが「宇宙論」です。過去20年間に宇宙論は爆発的な進展を遂げてきました。特に観察装置の進化により、これまで見えなかった宇宙が見えるようになってきたのです。本講演では、最新の宇宙で起こっている信じ難い現象を紹介するとともに、研究者がいかにして解き明かしてきたかをお話しいただきます。