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撮って、残して、味わって。

写真家・川島小鳥が語る「写真を撮る理由」

更新日 : 2016年04月13日 (水)

第3章 大切な写真の「残し方」


 
『BABY BABY』と『未来ちゃん』

古川誠: 小鳥さんにとって初めての写真集は、2007年の『BABY BABY』(学研)ですね。

川島小鳥: 学生時代から4年ほど、どこかに発表するつもりもなく撮り続けていた写真です。

古川誠: ジュンジュンという女の子が登場するこの写真集、僕は大好きです。しかし、当初は発表するつもりすらなかった?

川島小鳥: 彼女は大学の友人で、たくさん撮らせてもらいました。当時、そのネガを街なかの500円ほどで現像してくれるお店に出すと、できあがりの色がとにかく悪かった。それを見て「自分は下手なんだ」と思っていました。それでもとにかくいい写真が撮りたくて、写真は撮り続けていました。

写真スタジオを辞めた後、街の写真屋さんでアルバイトを始めたのですが、そこで同じネガをきちんとした専門の機械で現像してみたところ、驚くほど鮮やかできれいな写真だった。それまでは作品になどならないと考えていましたが、「本当はこんなにきれいに撮れていたんだ」と気がついて。そこで4年分の写真をまとめて、ある賞に応募したところ、運よく大賞を受賞して『BABY BABY』という本になりました。

古川誠: それは面白い話ですね。その次に出したのが『未来ちゃん』。これはどのような経緯でスタートしたのでしょう?

川島小鳥: あの小さな女の子は、佐渡島に暮らす友人のお子さんで、当時は3歳でした。僕は元々、人を撮ることが好きなのですが、誰かを撮影する時は相手とコミュニケーションというか、撮る・撮られることを互いに意識しますよね。

ところが、未来ちゃんの場合、カメラを向けても完全に無視されてしまった。それが衝撃というか、まったく新しい感覚でした。ちょうどその頃、新しいことにチャレンジしたいと考えていたため、それなら1年かけてこの子を撮り続けようと決めました。
 
こだわりがつまった写真集

古川誠: 本日のテーマに「残して」とありますが、小鳥さんは写真の残し方、つまり写真集のつくりにも並々ならぬこだわりが感じられます。『未来ちゃん』も様々な工夫としかけがありますよね。

川島小鳥: 例えば、一般的な本や雑誌は、基本的に左・右にぱらりと開きますが、中央に顔がくる写真を載せようとすると、本を綴じる真ん中の部分で顔が左右に割れてしまいます。だから、メインの被写体は、左右どちらかに寄せる必要があります。特に雑誌の場合、「文章を入れたいので、ここの部分だけはきれいに空けておいてください」とも言われます。

古川誠: たしかにそうですよね。

川島小鳥: 自分で好きなように撮る時は、そうしたルールがまったくありません。そうなると、いわゆる“日の丸写真”という、撮りたいものがど真ん中にくる写真が多くなります。本来、プロとしてはやってはいけない感じの、とても単純な構図です。

実は『未来ちゃん』をまとめる時、日の丸写真が多くて困ってしまい、「それなら、本をグルリと回して見てもらえばいいんだ」と思いつきました。綴じる部分を上にして、カレンダーのように下から上に向けてページをめくってもらう形を提案しました。

古川誠: ページを開くと、上下に1枚ずつ横位置の写真があったり、見開きで縦位置の写真がバーン飛び出すページもあったりして、とても新鮮です。新しい写真集『明星』もユニークで、ページをめくると縦長・横長に断裁された写真が交互に綴じられている。これはまさに、製本所泣かせのつくりだと思います。

川島小鳥: 僕が成長しておらず、相変わらず日の丸写真ばかり撮るので、今回も色々な方に頑張っていただきました。とはいえ、他の人の写真集を見ていると、写真はすごくいいのに、本の形やデザインが良くないことがある。その逆もあります。写真集をつくる時は、そのマッチングがとても大切だと考えています。

古川誠: 小鳥さんの写真集を見る際は、写真はもちろん、本のつくりにも注目していただくと、より楽しめると思います。「また、日の丸写真だよ」なんて(笑)。


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撮って、残して、味わって。すると何が見えますか?
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写真集「未来ちゃん」後、待望の最新写真集を発売する川島さんと、オズマガジン編集長が、写真を「残すこと、味わうこと」について語ります。


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