記事・レポート

女性起業家、明日への挑戦!

「想い」から生まれたイノベーション

更新日 : 2016年03月16日 (水)

第9章 最高の商品・サービスを届けるためのこだわり


 
「できない」を「できる」にする

本荘修二: 遠藤さんも最高のあられを作るために、徹底して品質にこだわられています。とはいえ、商品開発は初めての経験ですから、最初は大変だったと思います。

遠藤貴子: まずは、あられが作られる工程をイチから学び、最高の素材を選び、職人さんのこだわりが詰まった味をそのままの形で届ける方法も徹底的に調べました。そもそも、60年以上もあられやお煎餅を作り続けてきた工場で、熟練の職人さんがたくさんいます。素材についても、新潟県の契約農家から特別栽培米を仕入れており、これは甘くて美味しい一等米。もち米は、しっかりした甘みを持つ最高級品質の「わたぼうし」だけを使っています。

しかし、良い素材と高い技術があっても、従来通りの商品ばかりでは立ち行かなくなっていたため、若い人や海外の人にも好まれる商品を作る必要がありました。そこで、日本語対応ではなかった頃からtwitterやFacebookを使い、どのような味が好まれるのかをリサーチし、商品開発に活かしていました。

本荘修二: 当時からソーシャルメディアマーケティングをされていたわけですね。しかし、たくさんの声が集まっても、最終的に何を採用するのかは自分の決断次第。そこが難しいと思います。

遠藤貴子: その点では、大きなコストがかかるようなアイデアは一旦保留し、実現可能なものを選別しながら、1つひとつ商品化を進めていきました。また、品質という意味では、風味をそこなう合成保存料や甘味料などは一切使っていませんし、米菓に付きものの乾燥剤も使っていません。新鮮さと風味を守るため、食べきりサイズの小袋に分け、光に当たると風味が落ちることから遮光性の袋も使っています。また、乾燥剤の代わりに安全性の高い窒素を充填して、品質を保持しています。

とはいえ、品質にこだわるほど手間やコストがかかるのも事実です。特に包装については本当に苦労しました。あちこちの包装メーカーに電話をかけてお願いしたのですが、たいていはすぐに電話を切られてしまいました。ある時は、ホームページに「できる」と記載されていながら、実際に訪問すると「ウチではできない」と追い返されてしまったこともあります。

そこで諦めるのではなく、すぐに業界の展示会などに足を運び、別の工場を探しました。窒素の量も直接メーカーさんに行き、自分で試しながら調整しました。包装デザインも、若い人や海外の人に喜んでいただけるよう、デザイナーさんと考え抜きました。そのようなことを繰り返していたため、最初の商品ができるまで1年半ほどかかってしまいました。

本荘修二: それほど大変であれば、「少しくらい妥協しても」といった悪魔のささやきが聞こえてきそうなものです。何が支えとなったのでしょう?

遠藤貴子: 1つは、面倒くさいことだからこそ、やりがいがある。もう1つは、できないことをできるようにする。この2つこそ「仕事」だと考えているため、苦労やつらさは全く感じませんでした。面倒で誰もができないと言うならば、自分がやり遂げるしかない。そう覚悟を決め、その想いをずっと持ち続けてきたからこそ、様々なことも乗り越えられたのだと思います。


 
想いを表現する創作活動

本荘修二: 村田さんの場合はインターネットビジネスですが、情報提供のスピードと共に、充実したコンテンツ、使いやすさといった品質にも徹底的にこだわられています。サイバーエージェントに勤めていた頃は、金曜日に帰宅したことがなかったとお聞きしました。徹底して品質にこだわるパワーの源は何なのでしょうか?

村田マリ: 当時は週2、3回のペースで近くのホテルに泊まっていました。特に金曜日は皆さん早く帰るため、非常に集中しやすい。そのまま仕事を続け、土曜日のお昼頃になり、「もうこんな時間だ!」と気がつくといった生活が3年ほど続きました。そのおかげで、社内では相当浮いた存在になってしまいました。女子なのに平気で徹夜し、金曜の夜も遊びに行かないからです(笑)。

しかし、私自身はそれを仕事だと考えたことはありませんでした。学生時代にコミュニティサイトを立ち上げた時、自分の開発したものに人が集まり、喜んでくれる。それが面白くてしようがなかった。今も昔も、ウェブサービスを作ることが本当に好きなのです。音楽家が時間を忘れて作曲に没頭するのと同じです。私の場合は、たまたま没頭する対象がウェブサービスを作ることだった。

最近は経営者として見られることも増えていますが、私自身の感覚ではいまだに「クリエイター」に近いと思っています。したがって、ウェブサービスを立ち上げることは、自らの想いを表現する創作活動だと捉えています。自分の作品を作るわけですから、必然的に最高のクオリティを求める。だからこそ、私にとっては寝食を忘れてしまうほど楽しい作業なのです。

本荘修二: なるほど。ポジティブ心理学によれば、何かに没頭している時は「フロー」という状態で、非常にハッピーな気持ちになっているそうです。周囲からは大変苦しそうに見えても、本人は喜びにあふれている。このあたりも、お三方に共通するポイントだと思います。


該当講座


現代ビジネスコラボレーション「女性起業家、明日への挑戦!」(19:00~20:30)
現代ビジネスコラボレーション「女性起業家、明日への挑戦!」(19:00~20:30)

これからが楽しみな女性起業家に、経営コンサルタント・多摩大学客員教授の本荘修二氏がインタビューを行う連載「明日をつくる女性起業家」(講談社現代ビジネス)。この連載では、国内外問わず、20名以上の新進気鋭の女性起業家たちに、幼少時代から現在にいたるまで、これからの挑戦についてのお話を伺っています。

インタビュアーの本荘氏は、彼女たちには、生命力と行動力があって、やりたい!と思ったことに対して気づいたら走り出していたという共通点がある一方、独自の目線だからこその事業内容や、その進め方にも相違点があったと連載を振り返ります。

自ら問題意識を持って、行動し、世の中にインパクトを与えている女性起業家たち。

今回は、連載に登場したiemo株式会社代表取締役CEO・村田マリ氏、株式会社つ・い・つ・い代表取締役の遠藤貴子氏、株式会社和える代表取締役矢島里佳氏の3名をお招きし、本荘氏が彼女たちにそれぞれの起業家としての生き方に迫ります。彼女たちの挑戦の先には、どのような未来が待っているのでしょうか---。