記事・レポート

Incubation Hub Conference 2014
グローバル・イノベーターの条件

オープンイノベーションが新たな未来を創る

BIZセミナー経営戦略キャリア・人
更新日 : 2015年06月03日 (水)

第2章 大企業の中からスタートアップを生み出す

小田島伸至(ソニー株式会社 新規事業創出部 専任部長)
小田島伸至(ソニー株式会社 新規事業創出部 専任部長)

 
大胆な権限委譲でイノベーションを加速

小田島伸至: 一般的に、企業は業績が芳しくなくなると、安全性の高い既存事業にフォーカスしがちになり、リスクの伴う新事業創造を避けるようになります。そうなれば、企業・個人としてのクリエイティビティやベンチャースピリットはもちろん、スピード感や競争力も失われていくでしょう。

一方で、企業の中には必ず“面白い人”がいるものですが、現状は組織の壁で隔てられています。こうした人々が密に集い、互いに刺激し合うためには、「場」が必要です。そこで2014年8月、本社の1階に「SAP Creative Lounge」をオープンしました。今後はこの場所をインキュベーション・ハブとし、社内外の方を巻き込みながら様々なイノベーションを生み出していきたいと考えています。

SAP Creative Loungeは、大企業の中にありながらも、明るくカジュアルなスペースです。共創の場に相応しく、内装はすべて新規事業創出に携わるスタッフや社内外の有志が手掛けました。誰もが気軽に立ち寄れる場としたことで、平井一夫社長がふらりとやってきては、若手社員と意見を交わす光景も見かけます。また、レーザーカッターや3Dプリンタなど、アイデアを“見える化”するためのアイテムも豊富に取りそろえています。

ここでの活動として、1つはワークショップがあります。例えば、社内外から様々な肩書きを持つ人たちを集め、「2025年には何が起こっているのか?」など、普段の業務から離れたテーマについて語り合う。あるいは、異業種の外部企業とのコラボイベントも多数開催しています。

もう1つは、年4回の新規事業オーディションです。最たる特徴は、部署や事業の枠を越えなければ実現できないアイデアを提案すること、社内外問わず誰でも参加できることです。応募案件は社内のイントラ上で公開し、社員による投票で採否を決定しています。「自分もアイデアを出していいのだ」「あのプロジェクトに参加したい」と感じてもらうきっかけにもつながっています。

合格したアイデアは3カ月間プロジェクト化され、必要最小限の人員とコストでプロトタイピングに取り組みます。その後、成果が見込まれれば期間延長、もしくは直ちに事業化・量産化となります。うまくいかないと判断すれば、すみやかに撤退もします。大企業のリソースを背景に持ちつつ、権限と責任が現場に委譲されているため、何事もスピーディに行うことができます。

合格者は新規事業創出部に異動し、年齢や職歴を問わず、プロジェクトリーダーとして事業化に挑戦してもらいます。先日のオーディションでは、入社2年目の社員が見事合格し、20代で課長となりました。こうした人をサポートする仕組みとして、スタートアップに必要なスキルを身につける研修も用意しています。

手前味噌で恐縮ですが、ソニーのエンジニアは本当に優秀な方ばかり。そして、社内には長年蓄積してきたモノづくりのノウハウがあります。Sony Seed Acceleration Programを通じて、従来は離れ離れだった社内のリソースを結合し、社外の方々とも緩やかに結合していくことで、いままでにないビジネス、新しい未来を創り出していきたいと考えています。