記事・レポート

VISIONARY INSTITUTE
「地球食」の未来を読み解く

地球と人類との“共進化”に向けて:竹村真一

BIZセミナー教養文化
更新日 : 2015年03月18日 (水)

第2章 地球観が“痩せて”いる現代人


 
災いと恵みをもたらす地球

竹村真一: 過去20年間に世界で起きた地震の震源地を表示すると、帯状の線が現れます。これはプレートの境界です。日本列島は、太平洋プレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレート、北米プレートの交差点上にあることがよくわかります。私たちはよく「不動の大地」と言いますが、実際の大地は爪が伸びる程度の速さで常に動き続けています。現在の世界も、もともとは1つの超大陸から分裂しています。つまり、正確には「浮動の大地」なのです。

プレートの動きは、時に大規模な地震や津波を発生させ、人間社会に甚大な被害をもたらします。大型台風による大雨や洪水、渇水も同様です。人間の平均寿命は80歳程度ですから、その視点で考えれば、これらは突然起こる天変地異のように感じられます。しかし百年、千年、あるいは数億年という地球視点で考えれば、ごく日常的な出来事と言えるでしょう。

決して災害を軽んじているわけではありませんが、実はこうした災害を起こす地球のダイナミズムは、私たちの生活に大きな恵みをもたらしています。台風は海をかき混ぜて、栄養分豊かな深層水を表面にもたらし、海を蘇らせます。そのおかげで、プランクトンや魚が増殖します。プレートの沈み込む地域は、地震が多いだけでなく、活火山も多くなります。火山灰がもたらすミネラルのおかげで、日本の土は非常に肥えています。すべての生物が生きるためには、リンや窒素、鉄分などのミネラルが必要です。地震や火山の活動が盛んだからこそ、日本の大地にはこうした成分が多く含まれるのです。「災い」と「恵み」はコインの表裏であり、地球環境を語る際には表面の水や緑やCO2だけでなく、こうした大地の営みまで視野に入れて語る必要があります。



骨太な地球観を取り戻そう

竹村真一: 長崎県の雲仙・普賢岳が噴火した時、多くの方が避難を強いられました。それでも、地元の方々は「普賢さま」と言いながら、いまも山に向かって手を合わせます。また、伊豆大島・三原山の噴火でも、相当数の島民が避難を強いられましたが、彼らは山への信仰を失いませんでした。このような姿を見ると、自然と共に暮らす方々は、自然がもたらす災いと恵みの双方を正しく理解されているように感じます。

三原山は、古くは「御腹山」と呼ばれていました。つまり、母なる大地の胎内です。それに通ずるのが、『古事記』の中の「神産み」の話です。イザナギとイザナミとの間にたくさんの子ども(神さま)が産まれ、最後に火の子・カグツチが産まれます。その際、イザナミは陰部を焼かれて病み衰え、嘔吐や排泄を繰り返しながら亡くなりました。しかし、その排泄物から日本列島の豊かな大地や鉱脈が生まれた、と古事記には書かれているのです。

私たちは、自然界では分解されないものをつくり、ゴミとして排出しています。一方、自然界にゴミは存在しません。動物の排泄物や亡骸、落ち葉など、一見すると役に立たないものが、カビやバクテリアに分解され、他の生物の栄養となって循環しています。生物の死が、実は次の生につながっている。火山噴火もその時は災害をもたらしますが、その後には豊かな芽吹きが待っています。私たちの先祖は、こうした循環が自然界の中では当たり前であることを皮膚感覚として知っていたのでしょう。だからこそ、神産みの話がつくられたのだと思います。

一方で、現代の日本人の地球観は、非常に“痩せて”いるように感じます。環境問題が大変だと言いながら、二酸化炭素の排出やゲリラ豪雨など、現象の一側面にしか目を向けず、背景にある地球全体の営みまで目を向けていないと思うのです。地球の豊かな生命力を支えているのは、世界を巡る風や波、大地の動き、太陽や月の影響といったダイナミックな現象です。私たち日本人は、3.11を通じて、改めてその事実を思い知らされたのかもしれません。

日本人が本来もっていたはずの骨太な地球観を取り戻し、最新の科学技術のサポートを得ながら、21世紀の地球観として再構築していく。そして、これからの地球を担う子どもたちに受け継いでいきたいと考えています。



該当講座

2014年 第2回 未来の地球の「食」を読み解く
竹村真一 (京都造形芸術大学教授 / Earth Literacy Program代表)
薄羽美江 (株式会社エムシープランニング代表取締役 / 一般社団法人三世代生活文化研究所理事)

ゲスト講師:竹村真一(文化人類学者/京都造形芸術大学教授)。6月15日(日)まで東京ミッドタウン21_21 DESIGN SIGHT で開催されている『コメ』展を、グラフィックデザイナー・佐藤卓氏とともにディレクションされた文化人類学者・竹村真一氏(京都造形芸術大学教授)を迎え『触れる地球ミュージアム』に込める想い、そして地球の「食」の未来についてお話いただきます。


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