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日本のソフトパワー
発信力・交渉力を高める“文化の力”

近藤誠一・前文化庁長官が語る

BIZセミナー経営戦略キャリア・人
更新日 : 2015年03月04日 (水)

第4章 日本のソフトパワー「源泉」

近藤誠一氏

 
自分の魅力は自分では分からない

近藤誠一: 実際にソフトパワーを活用するうえでは、どのように考えていけばいいのか。ジョセフ・ナイ教授は、ソフトパワーの要素を「源泉」と「結果(成果)」に分けています。私は、「源泉」「発信」「受信」「結果」という4つの要素に分けて、最初の3つについてご説明したいと思います。

まずは、ソフトパワーの源泉です。よく、「自分の魅力は、自分ではなかなか分からない」と言われますが、魅力の源泉となれば、さらに分かりにくいと思います。自分で分からないのであれば、「他人からどう見られているのか?」を探ることが、源泉を考える1つのカギになります。

BBC(英国放送協会)では毎年、約20カ国を対象に、世界に良い・悪い影響を与えている国に関する世論調査を行っています。言うなれば、国の人気度ランキングですが、日本は2005年の調査開始以来、常にトップ5に含まれています。ここ数年は、円高や不景気などのネガティブな要素、さらに東アジアにおける複雑な状況も抱えていながら、依然としてトップクラスです。この結果は、日本に何かしらの普遍的な魅力があることを示唆しているように思います。

日本のマンガやアニメ、音楽、ファッションといったポップカルチャーは、海外で非常に高い人気を集めています。また、3.11後の被災者の方々の秩序立った行動、思いやりのある行動は、世界に驚きを与えましたし、寺社仏閣や伝統芸能、武道などについても高い評価を受けています。さらに、2013年は富士山の世界文化遺産登録、オリンピック・パラリンピックの招致成功、和食の無形文化遺産登録と、世界の注目を集める出来事が重なった記念すべき年でした。

私はこうした事実や出来事から、日本のソフトパワーの源泉が導き出せないか、と考えてみました。


 
日本文化の普遍的な価値

これらを眺めると、1つの共通点として、「自然」に対する日本人特有の考え方があるように感じます。自然に対する畏怖の念、畏敬の念。人間と自然は一体であり、動物も植物も含めた自然を大切にし、四季を愛でながら生きる。こうした基本的発想が日本人のなかにはあり、それが自我の抑制や思いやり、多様性を受け入れる感覚につながっていると思うのです。このあたりに、世界の人々が感じる普遍的な魅力、日本のソフトパワーの源泉があるのではないでしょうか。

もう少し、踏み込んで考えてみましょう。17世紀に起こった近代思想とそれに続く科学革命以降、私たち人類は文明を発展させ、物質的な豊かさを手に入れてきました。資源の枯渇や温暖化など、重要な問題は解決されていませんが、それに対しても、私たちのなかには「いずれは科学がすべてを解決してくれる」といった淡い期待があり、特に科学の発展に寄与してきた欧米の方々には、その傾向を強く感じます。

しかし、本当にすべての問題が科学で解決できるのでしょうか? このまま、科学万能主義を信じて進んでも大丈夫なのでしょうか?

これまで人類は、自然と共存しながら生きてきました。私たちは、いまでも素晴らしい自然の風景を前にしたとき、理由もなく感動し、涙を流します。それは、私たちの記憶の片隅に、自然に対する普遍的な感覚があるからだと思います。そう考えれば、心の奥底では行き過ぎた科学万能主義に対して、疑問や懸念を抱いている人も多いのではないか。世界の人々が日本の文化に惹かれる理由は、こうした疑問や懸念と密接に関係しているように思うのです。

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~日本人の発信力・交渉力を考える~

日本のソフトパワー
近藤誠一 (元文化庁長官)

今後の日本の経済発展、国際競争力向上のためにも重要な役割を果たすと考えられているソフトパワー。その役割と日本の発信力、交渉力について近藤氏に伺います。


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