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テクノロジーとアートの融合が拓くクリエーションの未来

真鍋大度×徳井直生が語るメディアアートとスタートアップ

更新日 : 2014年09月16日 (火)

第7章 メディアアートは仕事になるのか?


 
50万ダウンロードを記録したアプリ

真鍋大度: 徳井君と出会ったのは2002年でした。Max/MSPというコンピュータ音楽用のプログラミングソフトがあり、その夏休み合宿的なイベントだったと思います。その後、2人とも理系出身で年齢も同じ、さらに音楽好きという共通項もあり、仲良くなりました。2004年には、東京・初台にあるICC(NTTインターコミュニケーション・センター)というメディアアートに特化した美術館で、一緒に作品を発表しました。その頃はメディアアートを仕事にするというイメージはありましたか?

徳井直生: 当時は仕事にしようという意識は薄かったと思います。むしろ、メディアアートが仕事になると考えていましたか?

真鍋大度: 根拠はなかったのですが、「自分だけなら、どうにか食えるかな」とは思っていました。そもそも、メディアアートはビジネスを踏まえてつくるものではない、という側面もあります。徳井君は大学卒業後、研究所へ入った理由は?

徳井直生: 研究活動の延長といった感じでした。しかし、学会に出席して研究発表を聞くたびに、何となく現実の世界と乖離しているように感じていました。単純につまらなかった。僕は、現実の世界と自分の研究をブリッジしたいと考えていましたから。3年ほど勤め、違和感が膨らみはじめた頃にiPhone3Gが登場した。手にしたとき、「自分のつくったものが世界中で売れるかも」と思いました。

たとえば、2008年に僕が初めてつくった「9の1」というiPhoneアプリがあります。アプリを立ち上げ、iPhoneをポケットに入れてジャンプすると、スーパーマリオのジャンプ音が鳴る。ヘッドホンをつけて街中を走りまわると、何となくスーパーマリオの世界にいるような気持ちになる。GPSをオンにすれば、ジャンプした場所が地図上に表示され、他のユーザーがジャンプした場所も表示されるため、ワールドワイドにスーパーマリオの世界が楽しめる、というものです。

非常に単純なアプリでしたが、最終的にダウンロード数が50万を超えてしまった。無料アプリだったので、本当に惜しいことをしました(笑)。当時はiPhoneが発売されたばかりで、皆がこぞってアプリをダウンロードしていましたが、僕としてはその先に広がる未来に大きな可能性を感じました。

学会や展覧会など、閉鎖的な空間で作品を発表しても、やはり届けられる範囲は狭いでしょう。しかし、このアプリをつくったことで、今後は時間も国境も一気に飛び越え、多くの人に直接、自分の作品を届けることができると実感しました。

※編注
シードアクセラレーター
将来性のあるビジネスのシード(種)をもつスタートアップに対して、小規模の投資を行うだけでなく、実績のあるメンターによる助言や、有力な投資家へのプレゼンテーション機会の提供など、スタートアップの成長促進を支援する。通常、支援は数カ月程度の短期間で行われ、法人化後の株式取得により利益を得る仕組みとなっている。

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SWITCH presents メディアアートとスタートアップ

音楽、アート、映像といったエンタテインメントの世界を、さまざまな分野のテクノロジーを導入して変化させるディレクションで注目されるRhizomatiks真鍋大度とメディアアートを軸に米シリコンバレーにあるシードアクセラレーター500 Startupsでアプリの開発を行うなどスタートアップ業界にも進出するQosmo徳井直生。
2人の対話から、近未来へのネクストステップが見えてくるはず。