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「くまモン」『聞く力』にみる、魅力の引き出し方

阿川佐和子×水野学 対談

更新日 : 2014年06月27日 (金)

第4章 アピール疲れ、していませんか?

写真:水野学(クリエイティブディレクター/good design company 代表取締役/慶應義塾大学特別招聘准教授)

 
日本語は対人関係を作りやすいけれど・・・

阿川佐和子: 長い間、日本人は「他者に寄与して生きることが大切だ」と教えられてきましたが、あるときから風向きが変わった。自分の意見をもち、イエス/ノーをはっきり言おうなど、グローバル化のなかで自分をアピールすることに比重が置かれるようになりました。私としては「みんな、“アピール疲れ”していませんか?」と思うわけです。

水野学: インターネットの登場以降、その傾向は顕著になっていると思います。

阿川佐和子: アピールという言葉に関連すれば、大学時代に聞いた言語学の先生の話が印象に残っています。「英語と根本的に違う部分は、日本語の一人称はその場で使われる二人称によって決まる」というものです。

たとえば、米国人の子どもが“I don’t like apple.”と言う際、相手が大統領でも、友だちでも、使う言葉は変わらないはずです。水野さんはいま「僕」と言われていますが、お客様の前では「わたくし」、友だちと話すときは「俺」と言っているかもしれません。このように日本語の場合は話す相手により、一人称、自分を示す言葉が変わります。小説においては、一人称の使い方により人物像さえ一変します。たとえば、村上春樹さんなら「僕」ですが、「俺」や「私」を頻用する作家さんもいます。同じ「僕」でも、「ぼく」と使い分けることもある。つまり、「一人称とは、二人称に対する態度」と受け止められるわけです。

水野学: 自分の立ち位置を明らかにするためのものでしょうか。


阿川佐和子: 先生はまた「主語の次に肯定・否定の言葉をつなげなくても良い」「文章の最後に白黒を決めればいい」ともおっしゃっていました。たとえば、水野さんが社長さんと乾杯されるとき、「なんと言ってもまずはビール」と言いかけ、社長さんが怪訝な顔をしたとしたら…。「…ではないですよね〜!」と、言い換えることもできるわけです。

水野学: (爆笑)たしかに!

阿川佐和子: いっぽう、英語の場合は2語目に肯定・否定を示す言葉がきます。言葉を口にする前に、自分の意見を決めておかなければならないんですね。日本語は曖昧性の強い言語と言われますが、別の意味では融通性があり、より良い対人関係を作りやすい言語と言えるでしょう。

ほかに、私たち日本人は、恥ずかしいときや都合が悪いとき、笑って済ませようとする独特のコミュニケーションがあります。これは、海外の方からは「本心が分からなくて薄気味悪い」と言われています。しかし、歴史を辿ると、そうした笑いは「自分の抱えている不幸を相手に伝染させてはいけない」という配慮から生まれたものだそうです。負の感情を、笑いにより抑えているのです。

水野学: すごく面白い。「相手を思いやる気持ち」といった言葉にも置き換えられそうですね。

阿川佐和子: それは、「O・MO・TE・NA・SHI?」

水野学: はい、……そうです。