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ハフィントンポストは日本で新たな言論コミュニティを形成できるか?

松浦編集長が語る、ネットメディアの課題と未来

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更新日 : 2014年03月27日 (木)

第10章 “健全”な言論コミュニティは存在しうるのか

松浦茂樹(ザ・ハフィントン・ポスト日本版 編集長)

 
前向きな議論を

田端信太郎: 健全な言論コミュニティの形成という話がありましたが、実は何をもって健全かと論じることは、非常に難しい。たとえば、コメント欄に誹謗中傷、罵詈雑言がないことをもって健全だと言うことは、少し違うような気もします。

松浦茂樹: 確かに少し違います。ただ、罵詈雑言の中にも、本質を突いた光る意見もあります。

田端信太郎: しかし、世の中には明らかに不健全なコメントをする人も、少なからず存在しています。それらを罵詈雑言と一括りにして、すべて見なかったことにし、ものすごく美しいところだけであるべき社会について語り合う。それは、ある意味で視野が狭いと感じますし、健全でもない。

他方で、コミュニティに参加している人からすれば、罵詈雑言がなければプライドは保たれますし、気持ちが良い。したがって、自意識を満足させることが優先され、本質的な議論から離れてしまう可能性もある。これもまた、健全ではありません。ハフポスト、あるいは松浦さんとして考える、健全なメディアとはどのようなものでしょうか?

松浦茂樹: 健全、あるいは良質という意味では、「前向きな議論ができる」という部分さえ守られていれば、コミュニティのあり方は自由で良いと思います。粗探しに終始するのではなく、互いにリスペクトし合い、次に何ができるのか、どのように進めるのかと議論を深めていく。未来に対して一石を投じることができているのであれば、形は柔軟で良いと思います。とは言いつつも、創刊からまだ2カ月間ですから、現在は前向きな議論ができる場を作り上げていくために、コメント欄の「空間編集」をきつめに設定しています。

田端信太郎: 実際に100件のコメントが書き込まれた場合、表に出る割合はどの程度ですか?

松浦茂樹: 米国版は7割。現在の日本版もほぼ同程度です。
田端信太郎氏と松浦茂樹氏

多様性と質の担保の両立

田端信太郎: ハフポスト米国版のページビューは、現在月間15億と言われています。単純にページビューのみで比較すれば、世界にはそれ以上の数を集めるサイトはたくさんあります。BLOGOSは、ページビューがすべてではないとも考えています。ハフポストも同じだと思います。では、何が最も大切なのでしょうか? 

私は、世の中への前向きな影響力だと考えています。前向きな影響力を発揮する健全なメディアとは、コミュニティとしての「多様性」が保たれていること。その点で、ハフポストがやや矛盾していると思うのは、プラットフォーマーなのか、メディアなのかがはっきりしないことです。ツイッターやフェイスブックのほうが、言論空間としてはより多様だと思うのですが。

松浦茂樹: 確かに多様です。しかし、多様性を重んじることと、質を保つことは、容易に相容れないという事実もあります。

田端信太郎: 世の中に対して、前向きな影響力を発揮できるメディアを目指す上では、その課題を乗り越えなければならない。松浦さんには、ぜひ乗り越えてほしい。これからも切磋琢磨しつつ、一緒に頑張れればと思います。

松浦茂樹: 一緒に頑張りましょう。


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松浦茂樹 (ザ・ハフィントン・ポスト日本版 編集長)
田端信太郎 (LINE株式会社 執行役員 広告事業グループ長)

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