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『日本最悪のシナリオ』に学ぶ危機管理とリーダーシップ

“想定外”の危機を乗り越える方法とは?

経営戦略政治・経済・国際キャリア・人
更新日 : 2014年02月20日 (木)

第3章 危機におけるリーダーシップ (2)Bold Action(決断・行動)

塩崎彰久(パートナー弁護士 長島・大野・常松法律事務所)

 
決断と行動への心構え

塩崎彰久: 次のステップは、Bold Action(決断・行動)です。リーダーが決断を下す際の留意点を見ていきましょう。

<最終決定者は、最初に意見を言わない>
危機対応は、リーダー(最終決定権者)を含めた5~6人のチームで行うことが基本です。対応策を決める際、最初にリーダーが意見を言ってしまうと、周囲はそれに合わせてしまうことがよく起きます。Group Dynamics(集団力学)が働くからです。多くの研究によれば、リーダーは最初はニュートラルなスタンスを保ち、皆の意見を聞いてから決断するほうがよい結果につながるとされています。有事にこそ忘れてしまいがちなポイントです。

<空気を読むことのリスクに注意せよ>
人間は非常に強いプレッシャーがかかる場面において、皆と違う意見を言うことに強い抵抗を感じると言われています。いわゆるGroup Think(集団思考)です。これにより、重大な事実があっても机上に置かれず、結果として誤った判断を下してしまうといった可能性が高くなるのです。危機発生時において過度に「空気を読む」ことは、さらなる状況の悪化に直結するリスクがあることを十分ご理解ください。

なかでも初見の人たちが集まった場面には、特徴的な集団心理が働きます。それぞれの出方をうかがいがちになってしまうため、意見を言わなくなるのです。危機が起こってからチームを作るのではなく、平時から相互信頼が確保された危機管理チームを作っておきましょう。

<悪い選択肢の中から選ぶ勇気を持つ>
危機に直面した場面での決断は、悪いオプション、さらに悪いオプション、最悪のオプションの中から選択しなくてはならないことがよくあります。どの選択でもトレードオフが生じる極限状態の中でも、リーダーは決断を下す勇気を持たなくてはなりません。

危機管理におけるリーダーの役割は、決断することだけではありません。決断した内容を、行動へと落とし込んでいくことも大切です。

<過度の中央管理はかえって非効率>
危機が起きれば、状況は刻々と変化していきます。こうしたときにワンマン型・中央集権型の管理を行っていては、対応は遅れていきます。福島原発事故のときも、政府の対応の遅さが強く批判されました。全体の方針を決めるのはリーダーでも、その後の行動は、現場を熟知したスタッフに任せるほうがうまくいくことが多いとされています。

<使えない人材は躊躇せず差し替えよ>
危機に直面したとき、危機対応のチームには度胸のある人、決断力のある人が必要です。ビジネスの場面では優れた能力を発揮するスタッフでも、危機管理には適していないと感じたら、躊躇することなく別のスタッフに差し替える。結果的に、深刻なダメージを抑えることにつながるのです。

<異なる組織・部門間の協力を推奨する>
組織を横断的にまとめ上げ、対応力を高めていく。これは平時においてもリーダーに求められる能力です。緊急性の高い状況でも、人々の素早い判断と行動を促すために、さらに強くこの能力が求められます。

関連書籍

『日本最悪のシナリオ 9つの死角』

日本再建イニシアティブ
新潮社


該当講座

“日本最悪のシナリオ”に学ぶ「危機管理」と「リーダーシップ」
竹内幹 (一橋大学大学院経済学研究科 准教授)
塩崎彰久 (パートナー弁護士 長島・大野・常松法律事務所)
荻原国啓 (ピースマインド・イープ株式会社 代表取締役社長)
船橋洋一 (一般財団法人日本再建イニシアティブ理事長 慶應義塾大学特別招聘教授)

船橋洋一(一般財団法人日本再建イニシアティブ理事長)他
一つの危機はどのような経緯で最悪な状況を迎えるのか、何がトリガーになり、負の連鎖の生み出すのか、危機悪化の原因とは何なのか、最悪シナリオの例より検証します。最悪の状況を考えることにより、リスクを認知し、最悪から逆算することで、今すべきこと、将来に向け備える必要があることを明確にしていきます。後半は、「危機の本質を理解するためのアジェンダ設定力」「リーダーシップ・組織のあり方」など議論を深めます。


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