記事・レポート

「まちの保育園」が実践する、コミュニティデザイン

地域ぐるみで子どもを育てる

建築・デザインマーケティング・PRキャリア・人
更新日 : 2014年01月30日 (木)

第2章 子どもと地域を緩やかにつなぐ


 
まちに開かれる段階的な設計とは?

松本理寿輝: 子どもは、豊かな文化の中で育まれていくことが望ましいと考えています。豊かな文化の根底には、多様なコミュニケーションや出会いがあり、そこから子どもたちの創造性は形作られていきます。しかし、近年は安心・安全の観点から、保育・幼児教育の現場は地域に対して“閉じる”傾向が強くなっています。

子どもの安心・安全を担保しつつ、いかに地域に開かれた場所としていくのか。「まちの保育園」の設計では、これら相反するテーマを両立させ、子どもと地域を緩やかにつなぐための工夫が求められました。

地域へ向けて開かれたイメージを広く伝えるため、外装はほぼ全面ガラス張りとしました。エントランスを入ると、左手前にベーカリー&カフェの入口、正面ドアの先はギャラリースペースです。ギャラリーの奥にはもう1つドアがあり、そこから先が保育園となります。子どもの安心・安全、生活の落ち着きなどを確保するため、私たちと顔なじみになった方のみ園内に入ることができます。エントランス、ギャラリー、保育園の入口と、段階的に地域に開かれていく造りです。

地域と学びを共有するギャラリー

松本理寿輝: ギャラリーは、子どもたちの日々の活動の様子や作品を展示していますが、地域の方々とも活用していきたいと考えています。

保育園のすぐ近くにある日本大学芸術学部の建築学科の学生と一緒にワークショップを行いました。「まちの保育園が、現在のコンセプトのまま違う設計だったら、どんな建築がありえたのか」をテーマとした講義に私たちがゲスト講師として招かれ、半年かけて「まちの保育園」の理念などを話しました。

半年後、学生が制作した建築模型をギャラリーに並べ、お披露目しました。展示物の傍らには、私たちがどのような想いで現在の保育園をつくり上げたのかを説明するパネルも置きました。こうした活動を通じて、開園から間もない「まちの保育園」のコンセプトを、地域の協力で広くお伝えすることができたと感じています。

いっぽうで子どもたちは、学生たちがつくり上げた作品に大きな刺激を受けたようです。画用紙に建物を描いたり、模型をつくったりしていました。学生と子どもたちが同じ時間を共有することで、新たな興味が引き出されたわけです。このようにギャラリーは、子どもと地域の多様なつながりを生み出す場所となっています。ギャラリーは、地域の様々な方々との活動を通して、広く地域に、子どもの姿や、子どものもっている力を伝えていく場として活用していきたいと思っています。

該当講座

シリーズ「街・人を変えるソーシャルデザイン」
“地域ぐるみで子どもを育てる”
松本理寿輝 (まちの保育園・こども園 代表 / まちの研究所株式会社 代表取締役 )
古田秘馬 (プロジェクトデザイナー/株式会社umari代表)

松本理寿輝(ナチュラルスマイルジャパン代表取締役)× 古田秘馬(株式会社umari代表)
2011年に小竹向原に開園した「まちの保育園」は、地域の人が利用できるベーカリーやカフェ、ギャラリーが併設され、従来の保育園のイメージとは異なる開放的な雰囲気。世代を超えた対話の中で、地域ぐるみで子どもを育てることを目指しています。今こそ、どのような幼児教育が必要なのか本質的に考え、街・地域の中で人々が対話し、大人も子どもも学びあえる社会のあり方を考えます。


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