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おとな絵本

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カフェブレイクブックトーク
更新日 : 2013年12月17日 (火)

第2章 コラボ絵本



澁川雅俊: 爆笑問題の太田光は前に小説『マボロシの鳥』(新潮社)を出版し、その後大御所の影絵画家・藤城清治と組んで『絵本マボロシの鳥』(講談社)を出しています。幻の踊り手の浮き沈みを書いた短編ファンタジーですが、影絵画家の承諾を得た著者はその作品を書き直しています。

しかし、コラボ絵本の代表は、何と言っても『絵草紙うろつき夜太』(柴田錬三郎、横尾忠則/国書刊行会(復刻版))でしょう。無頼の素浪人が剣にものを言わせて激動の幕末を野獣のように生きるという痛快時代小説(「週刊プレイボーイ」連載)です。この作品を作家と画家は1年以上もホテルに泊まり込み双発的に制作しました。

『陰陽師フルカラー絵物語』(「瘤取り晴明」・「首」・「鉄輪」の三部作)〔夢枕獏文、村上豊絵/文藝春秋〕は平安の陰陽師・阿部晴明を主人公にした怪奇時代小説で、作家と画家との相思相愛の産物です。画家は独特のユーモラス画風でこの物語に出てくる魑魅魍魎たちを描いており、私たちにどこか懐かしものを感じさせます。なお、夢枕獏はゲームソフトのキャラクターデザインなども手がける画家・寺田克也と組んで、ギアナ高地の宝物探しファンタジー・グラフィックス『十五夜物語』(早川書房)も制作しています。

村上春樹とメンシックの『ねむり』と『パン屋を襲う』(新潮社)、田口ランディと篁カノンの『転生』と『木霊』(サンマーク出版)は、シンボリックな小説作品に合わせた挿画、あるいはシンボリックな挿絵に合わせた小説、としか言いようがないほどフィットした絵本になっています。これらは本来挿絵本なのでしょうが、絵本としても違和感はありません。ところで春樹はこのドイツの新鋭の画家を大変気に入ったようですが、もともとこの作家は絵本好きで、『ポテト・スープが大好きな猫』〔テリー・ファリッシュ作、バリー・ルート絵〕をはじめとしてこれまでに十数点の欧米の「こども絵本」を邦訳しています。それらはいずれも作家自身が自分のために選んで翻訳したもので、大人にもたくさんのファンがいます。


●おとな絵本の読者層

『青い玉』(文化出版局)は難聴のピアニスト、フジコ・ヘミングが絵を描き、童話作家で古布衣装のデザインもする沓沢小波が文章を書いた小品です。その端正な本から子どもたちは猫との出合いから孤独な老女が癒されていくのを読みとるでしょう。しかし、小動物との触れ合いが老人の魂を救済する心の動きまでは、理解が行き着かないでしょう。また米国の絵本作家で、数々の絵本が邦訳されているゴフスタインの『ゴールディーのお人形』(現代企画室)は、簡略化された可愛らしい絵の印象から‘こども’絵本として扱われていますが、〈ものづくり〉に励む人々をテーマにしているこの作家の作品はわが国では若い女性にも人気です。なおこの本は55頁に9画しか挿入されておらず、本来は挿絵本なのでしょうが、雰囲気は絵本です。

ところで、読書に関して子どもと大人をどう区別するのでしょうか? 著作や出版のマーケティングや書店の店頭に並べられている本、そして図書館の本の配置出版される本を実態的に眺めると、蓋然的な差別化が図られているようです。また本文の文章表現でも違いがはっきりしています。しかし人間の心のひだに潜んでいる孤独、絶望、葛藤、虚無を描いているまちゅまゆの『ヒトを食べたきりん』(集広舎)は一見‘こども’絵本のように見えますが、作家はそのつもりはなかったでしょう。たしかに子どもたちは『怪談えほん』〔東雅夫企画・監修/岩崎書店〕のような怖い話が好きですが、カニバリズムを背景に人間の悪意や差別をノワール物語風な暗い画で描いている『…きりん』は明らかに‘おとな’絵本です。

なお『怪談えほん』シリーズには、『悪い本』〔宮部みゆき+吉田尚令〕、『マイマイとナイナイ』〔皆川博子+宇野亜喜良〕、『いるのいないの』〔京極夏彦+町田尚子〕、『ゆうれいのまち』〔恒川光太郎+大畑いくの〕、『ちょうつがいきいきい』〔加門七海+軽部武宏〕の5点があり、いずれも日常生活の中のちょっとした怪奇話を、現代のエンターテインメント作家たちが活躍中のイラストレーターとともに絵本にしています。


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