記事・レポート

伊藤穰一:逸脱からはじまる「学び」の実践

MIT Media Lab CREATIVE TALK「Learning Creative Learning」より

キャリア・人グローバル
更新日 : 2013年08月02日 (金)

第7章 目指すのは、予定調和ではない学び

伊藤穰一(MIT(米マサチューセッツ工科大学)メディアラボ所長)

 
生涯を通して学びをデザインしていく

林千晶: 今回のテーマである「Learning Creative Learning」について、Joi(伊藤穰一さんの愛称)は「予定調和ではない学び」と表現していますが、従来の教育との違いはどこにありますか?

伊藤穰一: 従来の教育には2つの目的がありました。1つは、子どもたちに社会に出るための準備をさせること。もう1つは、子どもたちが進む道を整理・分類すること。「君はエンジニア、君はお医者さんに」というように。

今後の社会の変化を考えると、「学び終わる」ことがなくなります。変化に取り残されないためには、常に学び続ける必要があるからです。従って、大人の学びを支えていくシステムが必要になってくると思います。また、世の中が激しく変化していて、個人のキャリアの中でも多種多様な役割を果たす必要が出てきています。ほとんどの仕事において「このスキルがあれば一生安泰」ではなくなっている。従来のように整理・分類することの意味が薄れてきているのです。

予定調和の教育だけでは、必ずどこかで大きな壁に突き当たってしまうでしょう。人生を豊かにしていくためには、あらゆることに興味を持ち、その中で選択肢を増やし、人とコラボレーションしながら、生涯を通じて学びをデザインしていくことが重要になります。驚きや感動に満ちた学びが必要だと思うのです。

林千晶: Joiの実感としては、MIT本体とメディアラボで、教育や学びに対するスタンスの違いがあると感じていますか?

伊藤穰一: MITは、ここ数年流行しているOCW(Open Course Ware)やMOOC(Massive Open Online Course)の草分け的存在です。こうしたことを主導するチームは、基本的には教育システムそのものを変えようとしています。例えば、対面式の授業も止めてしまおうとしている。授業は基本的にネットで見る。人が集まる場では対話をしたり、何かをつくり出したりすることを重視するというのです。

一方のメディアラボは、直接的に教育システムを変えるということは、あまり考えていません。従来の教育システムではあり得ないような学びの実験を行い、その情報を社会に発信し、受信したかどうかをチェックすることをメインとしています。特にいま、メディアラボが目的とするのは、どのように子どもたちの好奇心を喚起し、チームワークを育み、学びをドライブさせていくのかです。子どもたちの学びが喚起される仕組みを一生懸命考えています。

また、仮説がなくてもアクションしていくことも大きなポイントです。Learning Creative Learningには、学術的な仮説はまったくありません。とりあえずスタートしてみた。その結果から、私たち自身も色々なことを学んでいます。仮説があると、どうしてもその方向に修正したくなりますが、ありのままの結果を受け入れ、コンパスの向きを修正しながら進んでいるのです。

該当講座

Learning Creative Learning

~MITメディアラボで実践している「学び」への挑戦~

Learning Creative Learning
伊藤穰一 (MIT(米マサチューセッツ工科大学)メディアラボ所長)

伊藤 穰一(MITメディアラボ所長)
MITメディアラボとアカデミーヒルズがコラボレーションしてお届けする"CREATIVE TALK" シリーズ第1回は、MITメディアラボ所長の伊藤穰一(Joi Ito)氏をお招きして、MITメディアラボの"Learning Creative Learning"プログラムを題材に、「教わる」から「学ぶ」をどう実践していくかについて考えます。


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