記事・レポート

伊藤穰一:逸脱からはじまる「学び」の実践

MIT Media Lab CREATIVE TALK「Learning Creative Learning」より

キャリア・人グローバル
更新日 : 2013年07月19日 (金)

第1章 生涯学び続ける時代がやってきた

イノベーションの発信基地として多様な人材を多数輩出、世界的な注目を集めるMIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボとのコラボレーションセミナー「CREATIVE TALK」シリーズ。記念すべき初回のゲストは、同ラボの第4代所長を務める伊藤穰一(Joi Ito)氏です。「いま求められているのは、教育ではなく、学びだ」と語る伊藤氏に、MITメディアラボが目指す「学び」について語っていただきます。

講師:伊藤穰一(MIT(米マサチューセッツ工科大学)メディアラボ所長)

伊藤穰一(MIT(米マサチューセッツ工科大学)メディアラボ所長)
伊藤穰一(MIT(米マサチューセッツ工科大学)メディアラボ所長)

 
クリエイティビティのジレンマ

伊藤穰一: 本日は「Learning Creative Learning」というテーマでお話ししていきますが、最初に1つ質問です。みなさんが5歳だった頃を思い出してみてください。当時は何でも自由に発想し、好きな絵を描いたり、ものを作ったり、自分の興味の向くものに対して100%のクリエイティビティを発揮していませんでしたか? 翻って、現在はどうでしょう。おそらく、当時と同じではないと思います。なぜそうなってしまったのか。それは、子どもから大人になる過程で「クリエイティビティを発揮してはいけない」と教えられてきたからではないでしょうか。

産業革命以降に生まれた大量生産型の社会では、誰かの指示通り、同じ行為を正確に繰り返すことが重要なパーソナリティとされ、教育システムもこうした人間の育成に焦点が置かれていました。クリエイティビティは評価の対象にはなりにくかったのです。一方で現代は、同じ行為を正確に繰り返すよりも、独創性を発揮したり、イノベーションを起こしたりすることが重要だと喧伝されています。

しかし、日本の教育や企業の人事評価などを見ると、いまだに大量生産型のシステムから脱皮できてはいません。これは私の仮説ですが、いまの子どもたちは、現代社会には向いていない教育を与えられているのではないでしょうか。実はそこに、日本人が抱えている様々な問題の根っこがあるように思うのです。

BIからAIへ

伊藤穰一: BI(Before Internet)。インターネット登場以前の世界では、あらゆる物事は比較的シンプルでした。アイザック・ニュートンが示した万有引力の法則のように、多くの物事は「こうなったらこうなる」と計算・予測することができました。

AI(After Internet)。インターネット登場以降の世界では、あらゆる物事はとても複雑になり、変化のスピードも速くなりました。ほとんどの未来予測は当たらなくなり、「想定外」という言葉が盛んに使われるようになっています。

BIの時代は、従来の知識・経験をもとに一生懸命考えれば、物事は大抵うまく進みました。大人になるまで一生懸命ルールを覚え、大人になったら学んだことを日々繰り返し、蓄えた知識や経験を次代に受け渡していけば、社会はうまく回っていたのです。AIの時代は、あまりにも変化が激しすぎてしまい、旧来の考え方はすぐに陳腐化してしまいます。BI時代の方法は通用しないのです。

いまや学びは、子どもだけのものではありません。予測が不可能な社会に対応していくためには、生涯を通して学び続けていく必要があります。そのときに求められるのは、誰かに教わり記憶する従来型の教育(Education)ではなく、自らの興味によって喚起される学び(Learning)なのです。


該当講座

Learning Creative Learning

~MITメディアラボで実践している「学び」への挑戦~

Learning Creative Learning
伊藤穰一 (MIT(米マサチューセッツ工科大学)メディアラボ所長)

伊藤 穰一(MITメディアラボ所長)
MITメディアラボとアカデミーヒルズがコラボレーションしてお届けする"CREATIVE TALK" シリーズ第1回は、MITメディアラボ所長の伊藤穰一(Joi Ito)氏をお招きして、MITメディアラボの"Learning Creative Learning"プログラムを題材に、「教わる」から「学ぶ」をどう実践していくかについて考えます。


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