記事・レポート

MBA僧侶が編み出すコミュニケーションのカタチ

松本紹圭:目覚めの技術としての仏教

更新日 : 2013年03月22日 (金)

第5章 「未来のお寺のビジョン」を経営学で考える

松本紹圭(僧侶)

 
お坊さん自身が「諸行無常」を体現せよ

松本紹圭: 今日のお話のテーマでもありますが、仏教というのは「目覚めの技術」なのです。けれど実は、お坊さん自身が目覚めていないという状況もあったりします。例えば、仏教の中でも非常に大事な考え方に「諸行無常」という言葉があります。「何一つとして、変わらないものなどない」という意味ですね。諸行無常を教えの中心に置いているにもかかわらず、お坊さんは結構「お寺というのは昔からこうなのだ」ということにこだわってしまっているのです。私は、それを変えていかなければならないと思います。何でもかんでも変えればいいわけではありませんが、世の中の変化に合わせて「お寺のあるべき形」も変化するのは当然ですよね。

MBAで得た知識を、宗派を超えて共有

松本紹圭: こういった思いから、私が行ってみたのがMBA(経営学修士)です。仏教の世界にずっと親しんできた者としては、今まで触れてこなかったビジネスの視点から「これからのお寺のビジョン」を見てみるのもいいのではないかと考えたわけです。また、お坊さんとして、一度はインドに住んでみたかったこともあり、留学先はインドにしました。お寺での修業よりも相当つらかったですけれど、得るものはあったと思います。

MBAで学んだ成果は<未来の住職塾>という講座で生かしています。宗派にかかわらず「お寺のこれからの形をみんなで考えよう」という講座です。経営学を使っているのですが、お金の話はほとんどしません。「お寺はどうあるべきなのか」だとか「僧侶は何をすべきなのか」を、お坊さんが集まって徹底的に考えているのです。

内容を少しだけご紹介しましょう。経営学の考え方として、商品やサービスの価値は「価格の価値」「機能の価値」「関係性の価値」の3つで決まります。例えば「機能の価値」について見ていくと、「そもそもお寺の商品とは何でしょう?」とお坊さんたちに投げかけるわけです。そうすると「仏教が商品です」という答えが返ってくる。もう少し掘り下げると、仏教には「仏」「法」「僧」という三宝があります。「お寺には仏がありますが、家にお仏壇があればそれでいいのではないか?」「お寺には法があると言うけれど、経典は本屋さんでも買えますよ?」と問いかけます。こういった質問を投げかけ続けることで「お寺は本質的に何を提供していかなくてはならないのか」を探っていくのです。

「教えのセールスマン」から「ライフスタイルのマーケッター」へ

松本紹圭: お坊さんの立場から「仏教とはこういうものですよ」と語りかけてきました。しかし、そんな話をされても自分に何の関係があるのかが分からないので、一般の方にはまったく伝わっていかないのですね。こちらから語りかけるのではなく、受け手の側から見てどういう価値をもつのかを伝えていかなければなりません。「マーケティングの理想は、販売を不要にすることである」とドラッカーが言っています。いままでの住職は「教えのセールスマン」だったと思います。これからは「ライフスタイルのマーケッター」に、お坊さんの役割が変わっていく必要があるのではないでしょうか? 大切なことは、>仏教徒や檀家(だんか)を増やすことではありません。そもそも仏教が生まれた意味を考えてみれば、「教えを受けた人の心にどのような変化が起こるのか」ということに焦点を当てていかなければなりません。