記事・レポート

建築家・谷尻誠の「誤読」のすすめ

コンペ失敗例に学ぶ、真に勝つための思考術

更新日 : 2013年03月08日 (金)

第6章 頭の中に、星をたくさん散りばめる

谷尻誠(建築家/Suppose design office 代表)

 
ネットで変な画像ばかりを収集

谷尻誠: 僕は自分の頭の中に、とにかく星を散りばめないとダメだと思っています。いますぐに役に立つかどうかは分かりません。けれど夜空の星座も、もともとは単に星のかけらが空にあるだけ。そこに「オリオン座」のような意味をつけた瞬間、急に大事なものになってくるのです。そういうわけで、僕は家ではよくネットサーフィンをしています。変な画像ばかりをたくさん探すのです。

たとえば、(集めた画像をスライドで見せながら)筆箱とタコス、巻く物同士を組み合わせてつくった新しい筆箱。使い終わった電球を水槽にする。水着は本来日焼けをしない部分をつくるアイテムなのに、ハート型の穴をあけると日焼けをデザインすることもできます。果物や野菜の画像は、すごくキレイです。こういうものを見ると、本屋さんも色でカテゴリー分けしたら?と考えてしまいます。建築や医学などではなく、色で区分けして、本と本の新しい出会いをデザインできたらいいなと思います。それから、卵の殻で鶏をつくると「卵が先か? 鶏が先か?」になる。「I Love Beach」というメッセージが底に彫られたサンダルをみんなが履いて歩いたら……。砂にメッセージが印字されて、すごくすてきなビーチができると思いませんか?

iPodをリサイクルした筆箱も、僕は興味があります。iPodが故障して本来の機能を失ってしまうと、iPodという名前も失い、ただのゴミになります。でも、「ペンを入れる」という新しい使い方を与えることでiPodではない新しい名前が生まれます。つくるだけではなく、何かを与えることも、デザインなのですね。

また、一番ショックだったのは、みかんの上下のヘタを最初に取り除き、残った部分を真横にむいてある状態をみたときです。「普通の路線にハマってしまってはダメですよ」と自分が話している割には、みかんを真横にむいたことが一度もなかった。学校で習ったわけでもないのに、真ん中に穴を空けて縦にむいている。これはすごく伝統的な行為なのだ、と驚かされました。

川の水を見て、透明の原理を考える

谷尻誠: このように「そんな考え方もあるよね」ということをつねに頭に散りばめておくと、「こういうことに使えるかもしれないな」と、突然つながり始める瞬間があります。

ひらめきはコンペにも生きています。世界遺産でもある広島県の宮島の、弥山という高い山に展望台をつくるというコンペがありました。現地に調査へ行ってみると、絶景が広がっている。すでに展望できていたのです。「展望台はなくてもいい」と提案したかったですが、それでは勝てるわけがないので(笑)、「展望台がない」のは、そもそもどういうことだろう? と考えました。つながったのが、川の水です。何もないように見えることを「透明」と言いますが、もし川に水がなかったら「透明」とは言いません。風景に新しい要素を与えること自体が「透明」としての原理を持っていると考えて、僕らは霧のような展望台を提案しました。

ファッションを建築に翻訳する

谷尻誠: 東京ミッドタウンで会場構成をするプロジェクトがありました。六本木ヒルズでこういうことを話すのは申し訳ないのですが(笑)。このときはファッションの世界に可能性を見出して、「布で建物をつくる」ことを提案したのです。建物は非常に大きいのですが、片手で持てるくらい軽い。それを風船の浮力で引っ張ることで、ニョキニョキ植物のように生えてきて、ゆらゆら揺れる建物が出来上がりました。

このように、異なる分野の要素を建築のことに置き換えてみる。それを僕は「建築に翻訳する」と表現します。皆さんもいろいろな経験をする中で、いろいろな人に会いますよね。それをいかに自分のものにするか? これが大事なのです。