記事・レポート

建築家・谷尻誠の「誤読」のすすめ

コンペ失敗例に学ぶ、真に勝つための思考術

更新日 : 2013年03月07日 (木)

第5章 コンペで負けても、「負けざま」が勝つ

谷尻誠(建築家/Suppose design office 代表)

 
作家性がないことも作家性だ

谷尻誠: コンペでは惜しいところまで行って負けてしまいますが、実は面接には強いのです。面接でなら、だいたい選んでもらえます。

オーストラリアのキャンベラでいま進行中のプロジェクトも、面接でした。有名な建築家がピックアップされる中、なぜか僕がオマケのように入っていたのです。そこで僕が話したのは「作家性がないことも作家性ではないか」
ということ。ほかの有名建築家のように一つの作家性で突っ走れるような能力を僕は持っていません。けれども、いろいろな人と話しながら面白いことを考えていくのは得意です。新しい建築家像として、僕のようなやり方があってもいいと思う。作家性が不足する部分は、コミュニケーションのなかでつくる。そうやって新しいものを考えていく能力はあるんだとプレゼンテーションしたところ、選んでいただけました。350世帯のアパートメントとオフィスと商業施設が一緒になった、5万平方メートルくらいの大きなプロジェクトで、2013年に竣工の予定です。ちなみに、建築は現場で出る廃材が多いので、「廃材は家具やインテリアに使いましょう」という提案をしました。

「負けたプロジェクト」で、コンペに勝つ

谷尻誠: 長崎にある7000坪くらいの傾斜地に、建築なのか風景なのか分からないように、段々状に建物をつくるプロジェクトもいま進めています。傾斜地に手を入れることなく、建築を成立させようというものです。これも面接で選ばれたのですが、何をプレゼンしたのかというと、今日皆さんにお見せしている「負けたプロジェクト」の数々です。負けた案ばかりを見せて「こういう考え方を持っていますよ」とか、「こういう脳みそを持った僕と仕事をするべきだ」ということを主張するのです。そうすると、だいたい選んでもらえます。

何を考え、どういう意志を持ってつくるのか

谷尻誠: 確かにコンペは勝ちたいですが、勝つことよりも「何を考え、どういう意志を持ってつくるのか」がすごく大切です。コンペでは負けても、ほかでは勝てる場面が絶対にあるのです。やらなくても良いことをやって、負けて……。というふうに、往生際が悪いというか、同じことばかりをやっています。負けると経費ばかりがかかってしまい、どんどん貧乏になっていきます。それでも他所で話すと「すごくいいね」と言ってくれる人もたくさんいるのです。そこで「僕らの事務所はちょっと先を行っているぞ」と考えるようにしています。「いまは時代が追いついていないから、もう少し経って時代が追いついてきたら、もう勝ちまくるな」と、自分に言い聞かせています(笑)。いまのところは辛抱して、このスタンスを貫いていこうと思います。