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「感動する力」でアートはここまで楽しくなる:姜尚中×竹中平蔵

もっと深くアートを感じるために、ちょっと深くアートを考える

政治・経済・国際文化教養
更新日 : 2012年10月05日 (金)

第4章 自我が消える

姜尚中(東京大学大学院情報学環 現代韓国研究センター長)

姜尚中: そのことを一番感じた作品は、マーク・ロスコ(1903~70年)の《シーグラム壁画》でした。DIC川村記念美術館で15点の作品を、2時間たっぷりと観させてもらいました(※編注:同館は全30点の《シーグラム壁画》のうち7点を所蔵。2009年の国際巡回展で15点を展示した)。作品は赤と黒だけで描かれた、2、3メートル、ときには4メートル四方を超える巨大な絵画です。これを一人でずっと観ていたら、自我が溶け出していくような感じになりました。

自我が消えて、何が見えてきたかというと、亡くなった母親と一緒にあぜ道を2人で歩いている光景が現れてきました。目の前にある作品の色や形などによって何かが発信されているというよりは、観ている人間が自己をなくしていくことによって、自分の中にある無意識も含めて、記憶というものが可視化される体験をしたのです。

【アートは黙ってあなたを待っている】
現代アートがわかりにくいのは、我々は自己意識の中で考えられるコードに触れないものはわからないと決めつけて、わかるものだけ、つまり自己意識のコードでキャッチできるものだけを受け入れているからです。

わかる・わからないとか、可視化できる・不可視であるとかいうことを超えて、自分が溶け出して、目の前に考えてもみなかったものが現れてくることがあるのです。だから、わからないものに対して怒りをぶつけたり、遠ざけたり、あるいは最初から敬遠したりするのではなく、その前に立ってみることです。アートはただ黙ってそこに在り、我々が近づくのを待っています。

私は1500年に描かれたデューラーの自画像に出会ったとき、「この作品は、僕と出会うために500年もここで待っていてくれたんだ」と思いました。

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該当講座

六本木アートカレッジ・セミナー
感動する力~アートを感じる・アートを考える~
姜尚中 (東京大学大学院情報学環 現代韓国研究センター長)
竹中平蔵 (アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学名誉教授)

姜尚中氏×竹中平蔵氏
 芸術は我々に勇気や感動、新たな発想を与えてくれ、豊かで潤いのある時間を我々は過ごしています。しかし、そこにはアートを感じる力、どのようにその作品、モノに接するかという我々の姿勢が重要になってきます。今回のセミナーでは、姜尚中氏に経験をもとに、アートを感じる力についてお話いただきます。また、後半の竹中平蔵氏との対談では、アートが社会に与える影響そして社会で担う役割・可能性についても発展させます。


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