記事・レポート
「感動する力」でアートはここまで楽しくなる:姜尚中×竹中平蔵
もっと深くアートを感じるために、ちょっと深くアートを考える
政治・経済・国際文化教養
更新日 : 2012年10月01日
(月)
第1章 不幸な人の方がいい作品を残している
人生を変えた一枚の自画像。姜尚中氏には、そんな作品があるといいます。どうすればアートを深く理解し、味わい尽くすことができるのでしょうか。そのカギは「アートを感じる力、アートに接する姿勢」にあるようです。アートの楽しみ方が広がる、姜氏の衝撃的なアート体験談と、竹中平蔵氏との対談をお楽しみ下さい。
スピーカー :姜尚中(東京大学大学院情報学環 現代韓国研究センター長)
モデレーター:竹中平蔵(アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学教授 グローバルセキュリティ研究所所長)
竹中平蔵: 姜尚中先生は、政治学の博士号をお持ちです。その先生がNHKの『日曜美術館』の司会をされる——社会の専門家であり、かつこれほどアートに造詣が深いというのは、本当に素晴らしいことだと思います。
私はアーティストというのは、すごいと思います。経済学者がいなくても経済はありますが、アーティストがいなければアートはありません。しかもアートは無から感動をつくり出し、いろいろな問題を提起する力を持っています。
きょうは姜さんのお話にゆっくり耳を傾けて、皆さんと一緒にアートと社会の問題を考える機会にしたいと思っております。
姜尚中: 現代アートというと、皆さん「わからない」と思うことが多いのではないでしょうか。テレビの視聴率も、印象派を取り上げる回はいいのですが、現代アートはとても低いのです。これは、多くの人はわかりやすいものを望んでいるということです。でも私たちは、私たちの世界がいかにわかりづらいものであるかを知っているし、時には自分自身のことがわかりづらいと感じることもあると思います。
【アートはパーソナルなもの】
独断と偏見ですが、アートには2つのことが言えると思います。1つは、アートの出発点は極めてパーソナルなことであり、また究極の目的もパーソナルなものであるということです。アートはアプリオリにイデオロギーや何か特定の社会性があってつくられるわけではないのです。徹底してパーソナルなものだからこそ、人の琴線に触れるのです。特定のイデオロギーや社会性を先験的に持って作品がつくられたら、随分底の浅いものになってしまうと私は思います。
もう1つは、不幸な人の方がいい作品を残しているということです。栄耀栄華を極めた人のものは、ほとんどが凡作です。
【不幸な人間にしか見えないものがある】
プラグマティストの創始者とも言えるウィリアム・ジェームズは、人間にはワンス・ボーンとトワイス・ボーンの2つのタイプがあると言いました。ワンス・ボーンというのは一度生まれの人間で、真善美を体得して幸せに一生を終える人です。そういう人には神様のような、現世を超えたものは必要ありません。トワイス・ボーンというのは二度生まれの人間で、人生に何か耐えがたい断絶を抱えていて、生まれ変わりたいと願う人です。
ワンス・ボーンで生まれた幸福な人には、なかなか見えないものがあります。病にかかったり、普通の人が経験できないような不幸に陥ったりするトワイス・ボーンの人間にしか見えないものがあるのです。
その代表例がマーク・ロスコ(1903~70年)です。現代アートでは非常に有名な作家ですから、皆さんも作品を観たことがあるかもしれません。マーク・ロスコは残念ながら自殺しました。ピカソ(1881~1973年)は女性をコロコロ変えていましたが、これは「死にたくないという願望」「歳を取ることへの恐怖」からだったのではないかと言われています。
私はアーティストというのは、すごいと思います。経済学者がいなくても経済はありますが、アーティストがいなければアートはありません。しかもアートは無から感動をつくり出し、いろいろな問題を提起する力を持っています。
きょうは姜さんのお話にゆっくり耳を傾けて、皆さんと一緒にアートと社会の問題を考える機会にしたいと思っております。
姜尚中: 現代アートというと、皆さん「わからない」と思うことが多いのではないでしょうか。テレビの視聴率も、印象派を取り上げる回はいいのですが、現代アートはとても低いのです。これは、多くの人はわかりやすいものを望んでいるということです。でも私たちは、私たちの世界がいかにわかりづらいものであるかを知っているし、時には自分自身のことがわかりづらいと感じることもあると思います。
【アートはパーソナルなもの】
独断と偏見ですが、アートには2つのことが言えると思います。1つは、アートの出発点は極めてパーソナルなことであり、また究極の目的もパーソナルなものであるということです。アートはアプリオリにイデオロギーや何か特定の社会性があってつくられるわけではないのです。徹底してパーソナルなものだからこそ、人の琴線に触れるのです。特定のイデオロギーや社会性を先験的に持って作品がつくられたら、随分底の浅いものになってしまうと私は思います。
もう1つは、不幸な人の方がいい作品を残しているということです。栄耀栄華を極めた人のものは、ほとんどが凡作です。
【不幸な人間にしか見えないものがある】
プラグマティストの創始者とも言えるウィリアム・ジェームズは、人間にはワンス・ボーンとトワイス・ボーンの2つのタイプがあると言いました。ワンス・ボーンというのは一度生まれの人間で、真善美を体得して幸せに一生を終える人です。そういう人には神様のような、現世を超えたものは必要ありません。トワイス・ボーンというのは二度生まれの人間で、人生に何か耐えがたい断絶を抱えていて、生まれ変わりたいと願う人です。
ワンス・ボーンで生まれた幸福な人には、なかなか見えないものがあります。病にかかったり、普通の人が経験できないような不幸に陥ったりするトワイス・ボーンの人間にしか見えないものがあるのです。
その代表例がマーク・ロスコ(1903~70年)です。現代アートでは非常に有名な作家ですから、皆さんも作品を観たことがあるかもしれません。マーク・ロスコは残念ながら自殺しました。ピカソ(1881~1973年)は女性をコロコロ変えていましたが、これは「死にたくないという願望」「歳を取ることへの恐怖」からだったのではないかと言われています。
関連リンク
「感動する力」でアートはここまで楽しくなる:姜尚中×竹中平蔵 インデックス
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第1章 不幸な人の方がいい作品を残している
2012年10月01日 (月)
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第2章 私の人生を変えた一枚の自画像
2012年10月02日 (火)
-
第3章 なぜ現代アートはわかりづらいのか
2012年10月04日 (木)
-
第4章 自我が消える
2012年10月05日 (金)
-
第5章 アートは神なき時代の宗教かもしれない
2012年10月09日 (火)
-
第6章 なぜアートは国や時代を超えて人の胸を打つのか
2012年10月11日 (木)
-
第7章 アートと社会の関係
2012年10月12日 (金)
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第8章 アートは我々の日常にこそ必要
2012年10月15日 (月)
-
第9章 人に間(ま)を加えて「人間」とする日本人の美意識とは?
2012年10月16日 (火)
該当講座
姜尚中氏×竹中平蔵氏
芸術は我々に勇気や感動、新たな発想を与えてくれ、豊かで潤いのある時間を我々は過ごしています。しかし、そこにはアートを感じる力、どのようにその作品、モノに接するかという我々の姿勢が重要になってきます。今回のセミナーでは、姜尚中氏に経験をもとに、アートを感じる力についてお話いただきます。また、後半の竹中平蔵氏との対談では、アートが社会に与える影響そして社会で担う役割・可能性についても発展させます。
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