記事・レポート
宮城県の村井嘉浩知事と、竹中平蔵ほか4人の専門家が本音で語る
『日本大災害の教訓』出版記念シンポジウム
東京政治・経済・国際
更新日 : 2012年06月11日
(月)
第5章 宮城県が掲げた「水産業復興特区」とは?
竹中平蔵: ここからはパネルディスカッションに入ります。まずは村井知事からお話しいただき、それをきっかけにディスカッションしていきたいと思います。
村井嘉浩: 神戸は10年かけてまちを元通りにきれいにしたそうですが、10年の間に船はアジアのほかの港に行っており、神戸港に10年前の活気は戻ってこなかったそうです。このお話を阪神・淡路大震災のときに兵庫県知事だった貝原(俊民)さんから伺ったとき、私はどんなに困難でも、従来とは違った新しい制度設計や思い切った手法を取り入れた復興を行おうと決意しました。
宮城県が策定した震災復興計画の期間は10年で、最初の3年間を復旧期、次の4年間を再生期、最後の3年間を発展期と考えております。復興の基本理念は5つです。
(1)災害に強く安心して暮らせるまちづくり
(2)県民一人ひとりが復興の主体・総力を結集した復興
(3)「復旧」にとどまらない抜本的な「再構築」
(4)現代社会の課題を解決する先進的な地域づくり
(5)壊滅的な被害からの復興モデルの構築
復興のポイントは10個ありますが、きょうはその中の3つを簡単にご紹介します。1つ目は『日本大災害の教訓』の中で竹中先生に、唯一「革新的」と評価いただいた水産業についてです。
宮城県には142の漁港があり、そのうちの3港が、全国に13港しかない特定第三種漁港という非常に大きな漁港です。2009年の実績で宮城県の養殖業生産額は全国第4位、水産加工業は第3位でした。しかし震災以前から、漁業は就労者数の減少と高齢化という大きな課題を抱えておりました。しかも今回の震災を受けて3割ぐらいの方が「やめたい」と考えておられます。
こうした状況を受け、私は水産業に関して3つの提案を掲げました。その1つが民間企業の参入を促すための「水産業復興特区」です。民間企業が参入する際に、問題になるのは漁業権です。漁業権は認可の優先順位が法律で定められており、第1順位は地元の漁協です。漁協が権利を放棄した場合は、第2順位の地元漁業者中心の法人に与えることができます。以下同様に、第3順位は地元漁業者7人以上の法人、第4順位は漁業者および漁業従事者、第5順位が新規参入者と続きます。
これはつまり、民間企業が水産業に参入する際は、必ず漁協の組合員にならなければいけないということです。組合員になると、例えば養殖業なら、つくる物も漁協の制約を受けますし、売上の一部を販売手数料として漁協に支払わなければなりません。これでは民間企業はなかなか参入できません。
水産業復興特区では、漁業権の優先順位を見直し、これまでの第1~第3順位までを「第1順位」にまとめて、同列に扱おうと提案したのです(※第4と第5は「第2順位」にまとめる)。こうすれば民間企業が地元の漁業者と連携すれば「第1順位」として扱われるので、参入しやすくなります。
これには漁協が猛反発いたしました。海面使用料や販売手数料が漁協に入らなくなるし、販路の問題もあるという理由からです。しかしこの特区構想は国に認められましたので、私はぜひこれをやりたいと考えております。
復興ポイントの2つ目は、農業です。農業に関しては、竹中先生に「民間企業と連携」という言葉がどこにも書いてない、何もやらないつもりか、とお叱りを受けましたが、そんなことはございません。宮城県の沿岸部に200~250ヘクタール(※東京ドーム約40~50個分)という大規模な先端農場をつくり、民間の投資を呼び込み、農業の再生を図っていこうと考えています。これも国と県と民間が一緒になってやってまいります。
3つ目は、再生可能エネルギーを活用したエコタウンの形成です。クリーンエネルギーを活かしたエコタウン構想は、全世界のあちこちで取り組みがはじまっていますが、いずれも人口や若者が増えている所です。今回の被災地のように、少子高齢化や過疎化が進んでいる地域での取り組みは前例がありません。これも民間の知恵と資本を入れながらチャレンジしたいと考えております。
村井嘉浩: 神戸は10年かけてまちを元通りにきれいにしたそうですが、10年の間に船はアジアのほかの港に行っており、神戸港に10年前の活気は戻ってこなかったそうです。このお話を阪神・淡路大震災のときに兵庫県知事だった貝原(俊民)さんから伺ったとき、私はどんなに困難でも、従来とは違った新しい制度設計や思い切った手法を取り入れた復興を行おうと決意しました。
宮城県が策定した震災復興計画の期間は10年で、最初の3年間を復旧期、次の4年間を再生期、最後の3年間を発展期と考えております。復興の基本理念は5つです。
(1)災害に強く安心して暮らせるまちづくり
(2)県民一人ひとりが復興の主体・総力を結集した復興
(3)「復旧」にとどまらない抜本的な「再構築」
(4)現代社会の課題を解決する先進的な地域づくり
(5)壊滅的な被害からの復興モデルの構築
復興のポイントは10個ありますが、きょうはその中の3つを簡単にご紹介します。1つ目は『日本大災害の教訓』の中で竹中先生に、唯一「革新的」と評価いただいた水産業についてです。
宮城県には142の漁港があり、そのうちの3港が、全国に13港しかない特定第三種漁港という非常に大きな漁港です。2009年の実績で宮城県の養殖業生産額は全国第4位、水産加工業は第3位でした。しかし震災以前から、漁業は就労者数の減少と高齢化という大きな課題を抱えておりました。しかも今回の震災を受けて3割ぐらいの方が「やめたい」と考えておられます。
こうした状況を受け、私は水産業に関して3つの提案を掲げました。その1つが民間企業の参入を促すための「水産業復興特区」です。民間企業が参入する際に、問題になるのは漁業権です。漁業権は認可の優先順位が法律で定められており、第1順位は地元の漁協です。漁協が権利を放棄した場合は、第2順位の地元漁業者中心の法人に与えることができます。以下同様に、第3順位は地元漁業者7人以上の法人、第4順位は漁業者および漁業従事者、第5順位が新規参入者と続きます。
これはつまり、民間企業が水産業に参入する際は、必ず漁協の組合員にならなければいけないということです。組合員になると、例えば養殖業なら、つくる物も漁協の制約を受けますし、売上の一部を販売手数料として漁協に支払わなければなりません。これでは民間企業はなかなか参入できません。
水産業復興特区では、漁業権の優先順位を見直し、これまでの第1~第3順位までを「第1順位」にまとめて、同列に扱おうと提案したのです(※第4と第5は「第2順位」にまとめる)。こうすれば民間企業が地元の漁業者と連携すれば「第1順位」として扱われるので、参入しやすくなります。
これには漁協が猛反発いたしました。海面使用料や販売手数料が漁協に入らなくなるし、販路の問題もあるという理由からです。しかしこの特区構想は国に認められましたので、私はぜひこれをやりたいと考えております。
復興ポイントの2つ目は、農業です。農業に関しては、竹中先生に「民間企業と連携」という言葉がどこにも書いてない、何もやらないつもりか、とお叱りを受けましたが、そんなことはございません。宮城県の沿岸部に200~250ヘクタール(※東京ドーム約40~50個分)という大規模な先端農場をつくり、民間の投資を呼び込み、農業の再生を図っていこうと考えています。これも国と県と民間が一緒になってやってまいります。
3つ目は、再生可能エネルギーを活用したエコタウンの形成です。クリーンエネルギーを活かしたエコタウン構想は、全世界のあちこちで取り組みがはじまっていますが、いずれも人口や若者が増えている所です。今回の被災地のように、少子高齢化や過疎化が進んでいる地域での取り組みは前例がありません。これも民間の知恵と資本を入れながらチャレンジしたいと考えております。
関連書籍
『日本大災害の教訓—複合危機とリスク管理』
竹中平蔵, 船橋洋一【編著】東洋経済新報社
宮城県の村井嘉浩知事と、竹中平蔵ほか4人の専門家が本音で語る
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該当講座
『日本大災害の教訓~複合危機とリスク管理~』
出版記念シンポジウム
竹中平蔵 (アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学名誉教授)
船橋洋一 (一般財団法人日本再建イニシアティブ理事長 慶應義塾大学特別招聘教授)
市川宏雄 (明治大学専門職大学院長 公共政策大学院ガバナンス研究科長・教授 )
西川智 (国土交通省 土地・建設産業局 土地市場課長 / 工学博士)
吉岡斉 (九州大学 教授 / 副学長)
村井嘉浩 (宮城県知事)
船橋洋一 (一般財団法人日本再建イニシアティブ理事長 慶應義塾大学特別招聘教授)
市川宏雄 (明治大学専門職大学院長 公共政策大学院ガバナンス研究科長・教授 )
西川智 (国土交通省 土地・建設産業局 土地市場課長 / 工学博士)
吉岡斉 (九州大学 教授 / 副学長)
村井嘉浩 (宮城県知事)
竹中平蔵(慶應義塾大学教授)船橋洋一(一般財団法人日本再建イニシアティブ理事長)、市川宏雄(明治大学専門職大学院長)、西川智(国土交通省土地・建設産業局土地市場課長)、吉岡斉(九州大学教授)、村井嘉浩(宮城県知事)東日本大震災の被害詳細、原因、教訓を世界の人々と共有し、後世へ伝えることを目的に、各分野の専門家が執筆した『日本大災害の教訓』出版シンポジウム。
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