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中田英寿×栗林隆×南條史生「伝統が開く日本の未来」

アートって、こういうことだったのか!

更新日 : 2012年05月15日 (火)

第6章 自分の作品を目の前でオークションにかけられる気持ちは…

南條史生(左)中田英寿氏(中央)栗林隆氏(右)

南條史生: 本当に素晴らしいパーティでしたね。栗林さんはどうでした、あのパーティは?

栗林隆: 僕ですか? いや、あの、うーん……。

中田英寿: 栗林さんはオークションが終わるまで、ずっと悩んでいましたね。

栗林隆: あれはね、自分の作品を目の前で競りにかけられるというのはね、死刑執行台に立たされた人間の気持ちですよ。

南條史生: 普通アーティストはオークション会場にはいないですからね。今回はガラということもあって、本人が参加しているんだけど、もし自分の作品が全然人気がなくて買い手がつかなかったら立場がないわけです。だから栗林さんはオークションで自分の作品の番が近くなってきたら、黙って下を向いて、すごく心配な顔をしていました。

事前に財団から「栗林さんの作品のファンの方がいたら、来ていただきたいのですが、誰かいませんか?」って電話があったので、私は本人に聞いたんですよ。「誰が君の作品のコレクターなの?」って。そしたら「コレクターなんて僕にはいません」って(笑)。仕方ないから結局何のアレンジもないままに、チャリティ・オークションに臨んだんですよね。

中田英寿: 会場にアーティスト本人に来てもらっているわけですから、オーガナイザーの僕としても、オークションで売れないとか、予想より値段がつかないというのは避けたいわけです。それでいろいろ対策はしているんですが、栗林さんがオークションの最中に下を向いていたように、僕もやっぱり考えるんです。「この作品、今回の中で一番売れにくそうだけれど、大丈夫かな。本当に売れるかな」って。

オークションでは作品の説明をそれぞれの方にしてもらったんですけど、このチームは南條さんが、あたかも自分の作品かのように、うまいこと言っていました(笑)。

南條史生: それが商売ですから(笑)。最後の締めのひと言は「これをオークションで手に入れた人は、世界を手に入れることになるんです」。

中田英寿: すると、会場が「おおおぉ!」って。

栗林隆: 一番最初に作品を観たときは「なんかフグみたいだな」って言ってたくせに(笑)。いやホント、さすがという感じでした。

中田英寿: 僕らの工夫の1つとして、本場のオークショニア(競売人)のクリスティーズの方に来てもらったんですけれど、これが本当に上手で。「あれっ」と思ったら、もう数十万、数百万って上がっていました。

栗林隆: スタートは10万円からでしたよね。

中田英寿: 僕は「10万円なんてあり得ない」と思うんですけれど、プロのクリスティーズさんとしては、まずは誰でも参加できる金額から始めるというのがあるらしいんです。だからどの作品も10万円からでした。で、栗林さんの落札額は?

栗林隆: えっ?

南條史生: 最終的にいくらで売れたのか、きっと皆さん聞きたいと思いますよ。

栗林隆: いや、まあ、思いもよらず上がりまして、一応380万円で売れまして。

南條史生: ドラマがありましたよね。何人かが競り合って。

中田英寿: デッドヒートでしたね。

栗林隆: 競り合いで上がるじゃないですか。僕は「おおっ!」と思ったんですけど、アシスタントは「栗林さん、安いんじゃないですか。俺らの労働からしたら、そんなものじゃ済まないんだけど」って(笑)。でも僕としては一安心というか、「これで安心して寝られる」みたいな感じでした。

中田英寿: 僕としては、作品の売り上げから翌年の制作予算を捻出するので、今年の予算以上になってほしいという気持ちもある。だからどうなるだろうと思って見ていたんですけど、すぐに今年の予算を超えたのでよかったです。

栗林隆: よかった(笑)。ありがとうございました。

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  六本木アートカレッジ「伝統が開く日本の未来」

「なにかできること、ひとつ。」をテーマに様々な活動を続ける「TAKE ACTION」を通して、積極的に新しい価値発信を続ける中田氏。そのプロジェクトのひとつとして始まった「REVALUE NIPPON PROJECT」は日本の伝統・文化をより多くの人に知ってもらうきっかけをつくり、新たな価値を見出すことにより、伝統文化の継承・発展を促すことを目的として、気鋭の工芸作家とアーティストやクリエイターのコラボレーションで作品を作っています。今回、「REVALUE NIPPON PROJECT」2011年メンバーとして参加しているアーティスト栗林隆氏、森美術館館長南條史生氏、そして中田氏が、現在進行形のプロジェクトについて、さらに世界を知る三人から、これからの日本がつないでいくべき伝統・文化、そして新しい価値創造について語ります。