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宇宙は何でできているのか ~宇宙の果ての向こう~

暗黒物質や暗黒エネルギーなど最新宇宙論を、村山斉が解説

教養文化
更新日 : 2012年01月17日 (火)

第5章 宇宙のほとんどは暗黒物質でできている

村山斉氏

村山斉: 38万歳より若いときの宇宙は、望遠鏡ではもう見ることができません。ではどうやって調べるかというと、そのころの宇宙で起きていたようなことを実験室でつくり出して調べるのです。加速器という装置を使います。

この装置で電子や陽子などの粒子を加速してガシャンとぶつけて、ビッグバンの頃と似たような高エネルギー状態をつくり出し、そのときどうやって水素やヘリウム、リチウムなどができるかを調べるんです。これによって宇宙ができて約1分歳ぐらいのときの姿は実験室で再現できるようになりました。

ここでも当然、もっと昔はどうだったのか気になりますよね。ここでも暗黒物質が活躍します。「宇宙は何でできているのか?」というと、実はほとんど暗黒物質でできているのです。コンピュータで暗黒物質がある宇宙と、暗黒物質がない宇宙をシミュレーションしてみると、暗黒物質がある宇宙では星や銀河が生まれますが、暗黒物質がない宇宙では137億年経っても星も銀河もできません。これはつまり「暗黒物質がないと私たちは生まれなかった」ということです。

暗黒物質は先ほど銀河の衝突のところでお話ししたように、何でもかんでもスースー通り抜けてしまうお化けのような存在で「弱虫」と呼ばれています。弱虫というのは「ほとんど反応しない重い素粒子(Weakly Interacting Massive Particle)」の頭文字をとったWIMPを訳したものです。暗黒物質は小さな粒々ですが重いと考えられています。

アインシュタインの有名な「E(エネルギー)=m(質量)×c(光の速さ)の二乗」は、エネルギーは重さに換えられることを示していますから、重いものをつくるにはエネルギーが必要です。今の宇宙はもうかなり冷たくなってきているので、こうした重い粒々をつくる十分なエネルギーはありません。しかし宇宙の始まりにはものすごいエネルギーがあったので、つくることができたのではないかと考えられています。「暗黒物質は宇宙の始めにつくられた素粒子じゃないか。ほとんど消滅してしまったけれど、ほんの少し生き残ったのではないか」というのが、今一番有力な考え方です。こう考えると、今、宇宙にある暗黒物質の量をうまく説明できるんです。

暗黒物質は地球も私たちの体もスースー通り抜けているので、ここら辺にもたくさんあります。であれば「何とか捕まえられないか?」と考えるのが人情というもので、ニュートリノと同じように、地下に大規模な実験装置をつくって捕まえようと、今、私たちの仲間が頑張っています。

暗黒物質ができたのは、宇宙がビッグバンで始まってから100億分の1秒後ぐらいだと考えられています。ですので暗黒物質のことがわかると、宇宙の始まりに迫れるのではないかと期待されています。

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関連書籍

『宇宙は何でできているのか』

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『宇宙は本当にひとつなのか』

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講談社



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宇宙は何でできているのか 
村山斉 (東京大学国際高等研究所数物連携宇宙研究機構 機構長)

村山斉(東京大学国際高等研究所数物連携宇宙研究機構 機構長)ベストセラー『宇宙は何でできているのか -素粒子物理学で解く宇宙の謎-』の著者である村山斉氏に、最新の観測・研究からわかった宇宙のはじまり についてお話いただきます。 セミナー終了後は、観望会を予定しております。


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