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小説は、真実を語る? ~経済小説の“虚実皮膜”~

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更新日 : 2011年11月10日 (木)

第5章 銀行・金融関連を素材にした作品の数々(2)

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サブプライム・ローンによる破局の物語

澁川雅俊: 07年以降に書かれた銀行・金融関係の小説には、サブプライム・ローンの証券がもたらした不良債権問題が必ずといっていいほど舞台回しの素材として使われています。題名がそのものずばりの『小説サブプライム 世界を破滅させた人間たち』(落合信彦)、『不法取引』(リー・ヴァンス)、『スギハラ・ダラー』(手嶋龍一)などがそれで、落合はこれまで国際紛争やテロなどを描いてきた作家で、ヴァンスはかつてゴールドマン・サックスのパートナーでした。そして手嶋は元NHKワシントン支局長で、リーマン・ショックの背景にあった諜報戦のサスペンスを書いています。しかしこれらはいずれも経済小説としては領域すれすれにある作品といっていいでしょう。

通貨、もしくは貨幣にかかわる作品

銀行・金融分野の小説はいずれも<お金>への飽くなき追求をモチーフにしていますが、ほとんどは通貨や貨幣が直接素材となっている作品ではありません。前の『スギハラ・ダラー』は<ドル>が標題に入っていますが、これも現代の世界的金融に混迷をもたらす要因を追求している作品です。

しかし探してみると、<お金>そのものを中心にして書かれているものもありました。わが国の江戸時代には、金が金を生み出す方法としてしばしば改鋳が行われ、そのたびに下級武士や町民を苦しめたことがあり、そのことが時代小説に取り上げられています。現代小説の中にも例えば城山三郎経済小説大賞を受賞した『ピコラエヴィッチ紙幣 日本人が発行したルーブル札の謎』(熊谷敬太郎)は、いまからおよそ百年前に、ある商社がシベリアの小都市で発行した貨幣を中心として、地域経済と貨幣の問題を追求しています。

しかしその紙幣はロシア国や日本国の通貨ではなく、いうなれば偽金です。通貨を素材とした作品の多くは、実は偽金を扱っており、『ウルトラ・ダラー』は経済テロ戦を目論む亡国が作製した超精巧百ドル偽紙幣にまつわる物語で、手嶋龍一の小説処女作です。また数々の文学賞を受賞し、いま芥川賞選考委員をしている島田雅彦が書いた『悪貨』も偽金にまつわる作品です。

通貨にかかわる小説にもう1点こんな作品があります。『偽装通貨』で、これは前に挙げたダイヤモンド経済小説大賞受賞作家の相場英雄が書いたネットマネー、つまり電子マネーやポイントなど擬似通貨の問題にまつわる物語です。

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