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「ガッツリ」にがっくり~すてきな日本語!?~

読みたい本が見つかる「ブックトーク」

カフェブレイクブックトーク
更新日 : 2011年07月28日 (木)

第1章 <日本語の乱れ>問題

先日ある大学病院で診察してもらったところ2週間分の薬を処方され、医師に「薬を“ガッツリ”飲んでください」と言われました。若者ならいざ知らず、相手
は医師です…私はその言い回しに違和感を覚え“がっくり”してしまいました。これをきっかけに、日本語の乱れなど、ことばについて論じている本を調べてみま
した。

講師:澁川 雅俊(アカデミーヒルズフェロー/前慶應義塾大学環境情報学部教授)

六本木ライブラリー ブックトーク 紹介書籍

はじめに

澁川雅俊: かれこれ70年前に東北の片田舎に生まれ、18才の時までそこで生活すると、土地の訛りが身体の隅々まで行きわたります。そんな人間が東京に出てきて一番困るのは、周りの人々とコトバを交わすことです。どんなイントネーションで話せばいいのかを、一言々々考え、そして口の中で練習したものです。その後米国に留学した際にも英語で苦労したのですが、それもこれも、適正なコトバで自分を表現したいと強く願っていたからです。

書籍マーケットでいま日本語関連図書を調べてみると、なんと1万2千点ほどあります(※2010年12月現在)。それを最近3年間に絞り込んでみると、およそ1,500点で、このところ年に約500点の本が出されています。六本木ライブラリーにも結構たくさん架蔵されていますが、そのほとんどが大なり小なり<日本語の乱れ>に言及しています。

<日本語の乱れ>問題

日本語を一つの言語としてとらえると、実にさまざまな要素によって構成されています。読み・書き・話しをすぐに思いつきますが、『日本語と日本語教育のための日本語学入門』(明治書院)によるとその範囲は広範です。目次を見ると、「音声、アクセント、語構成、文構成、文章・談話構成と文体、語彙、語の意味、文の意味とイントネーション、文字、表記、男性の言葉と女性の言葉、方言と共通語、待遇表現-敬語を中心に、日本語教育と国語教育」の14の項目が挙げられています。いま日本語の乱れを指摘している人たちは、濃淡の差はあるもののそれらのすべての側面にわたっているようです。

日本語の乱れの問題が特にやかましくなったのは10年ぐらい前からでしょうか。『日本語の乱れ』(清水義範)は、ラ抜き言葉、意味不明な流行語、間違った言葉遣い、平板なアクセント、カタカナ語の濫発などを指摘し、「日本語に未来はあるのか!」などと叫んでいます。ヒットソングの題名、街角の若者コトバ、子どもの作文、漢字力テスト、文字のアイコン化現象などを通して最近の状況を分析した、高等学校「国語」の教科書の編集に携わる著者は、『日本語のできない日本人』(鈴木義里)で「日本語」の崩壊現象を説いています。さらに『日本語力崩壊』(樋口裕一)で、受験小論文の専門家である著者は、現在の国語教育が日本語崩壊を引き起こしていると断定し、作文指導こそ国語教育の王道だと主張しています。それはまあ少しばかり極端ですが、文章作成能力は本を読むことによってのみ養われるとする提言は、ライブラリアンの私としては、わが意を得たりです。

ベストセラーになったこともある『問題な日本語〔正編・続編・第3編〕』(北原保雄)は、全3編を通じてこんな言い回しを問題視しています。いわく、「お名前をいただけますか」「さくっと」「○○さんって、今日ヒマだったりします?」「患者様」「鈍感力(なににでも「力」を付けたがる傾向)」「お休みをいただいております」「千円からお預かりします」「コーヒーで大丈夫ですか」「コーヒーのほうをお持ちしました」「こちら○○になります」「~でよろしかったでしょうか」「ありえなーい」「微妙」「普通においしい」「~っていうか」「私って~じゃないですか」などなど、です。

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