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世界が見た日本「東日本大震災は日本をどう変えるか」

ジェラルド・カーティス教授が語る、日本の現在・過去・未来

ライブラリートーク政治・経済・国際
更新日 : 2011年06月17日 (金)

第2章 「菅総理はダメ」は責任逃れの言い訳

ジェラルド・カーティス氏

ジェラルド・カーティス: 私は日本に戻ってきてから、政治家をはじめとしたいろいろな方とお会いしましたが、みんな「菅はダメ。辞めないと困る」と同じことを言います。確かに菅さんはダメかもしれないけれども、問題がそれだけなら日本は幸せです。総理大臣を変えれば問題が解決するわけですから。

ダメなのは菅さんだけではないでしょう。菅さんがダメなら「そのダメな人を総理大臣にしたのは誰か。どうしてそういうことになったのか」という話になぜならないのか。「菅はダメ」というのは責任逃れの言い訳です。確かに菅さんはリーダーとして問題がすごくあるとは思いますが、ただ「菅はダメ」と過剰に言って、それで片付けようとするのはどうかと思います。

最初の3~4週間、枝野官房長官は毎日何回も記者会見をして、持っている情報をすぐに国民に伝えていたと思います。情報を隠していたとは思いません。問題なのは、持っている情報が限られていたということです。東京電力が情報を出さなかった、あるいは東京電力と経産省の癒着関係で情報が出てこなかったのでしょう。経産省は原子力発電を推進する官庁なのに、その同じ省が原子力発電所を規制するなんて全く矛盾しています。けれどこれは菅さんが総理大臣になったからできた体制ではなく、自民党がつくったものです。

自民党は「菅はダメだ。辞めなければ連立しない、協力できない」と言っていますけれど、こんなにダメな菅さんが総理大臣になったことと、こんなにひどい東京電力の対応のなさがあるのはなぜなのか。一言ぐらい国民に謝ればいいじゃないかと私は思います。

菅さん以外にもこの政権には問題がたくさんあります。その1つは、事故から40日も経った4月25日になって初めて政府と東電が共同記者会見を行ったことです。なぜ初めから政府と東電と一緒にやらなかったのか、なぜ非常事態宣言をしていろいろなことをやらなかったのか。要するに危機管理が全くできていないんです。「日本に危機が訪れる」ということを考えたくないというのが戦後の日本だったのではないでしょうか。だから危機を考えない、考えないから危機管理もないというわけです。

菅政権の一番いけないところは、誰が責任を持ってやっているのかよくわからないことです。総理大臣というのは細かいことは任せて最終的な決断をする、難しいことを決めるのが仕事なのですが、どうも菅さんは全部自分でやりたいようですね。いろいろ委員会をつくって、全部自分が委員長になってやっていますが、うまくいっていません。

原発問題の一応の責任者は原子力行政の長である海江田経産大臣ですが、今表に出てきているのは細野首相補佐官です。それで菅総理はといえば「自分が一番わかっている」と思って現場に飛んで行ったりしている。一体どういうシステムになっているのか? きちんとしたシステムになっていないことが菅さんのリーダーシップ問題よりも大きな問題です。

「オバマ大統領は素晴らしい大統領になる」とアメリカのみんなが期待していました。それが今、「思ったほどやっていない」とみんながっかりしています——私はまあまあよくやっていると思っていますが。オバマさんは菅総理と同じで経験不足なんですね。与党として政権をとった経験がないし、知事のような権限を持つリーダーになったこともない、上院議員を1期務めただけです。しかしアメリカの場合、誰が大統領になってもちゃんとシステムがあるんです。プレジデントがいて、プレジデンシーがある。プレジデンシーというのは組織、体制、システムのことです。日本には総理大臣はいるけれど、官邸はどうにもなっていない。これが今の日本の深刻な問題だと思います。

日本に戻って来て非常にショックだったのですが、今の民主党はもう崩壊している感じですね。党になっていません。小沢グループだけでなく、民主党の若い人たちも野党気分で、平気で政権を批判したり財政政策に反対したりしています。もし今選挙をしたら、自民党が過半数をとって民主党がなくなる可能性が非常に高いと思います。そうでなくても、すぐに分裂する可能性もあります。小沢グループは署名運動を起こして両院議員総会を開こうとしていますし、自民党が内閣不信任案を出して小沢グループの30~40人が賛成すれば党が分裂します。日本の政党政治はこれから一体どうなるのか、非常に気になるところです。

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