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伝統と現代の融和を求める旅

日本元気塾セミナー in 根津美術館
館長・根津公一×建築家・隈研吾×日本元気塾塾長・米倉誠一郎

日本元気塾建築・デザイン文化
更新日 : 2010年11月11日 (木)

第7章 大胆な選択と集中で改修費用を捻出

内田和成氏

米倉誠一郎: 私は専攻がビジネスなので質問しますが、これだけのものをつくるというのは金額的にも大変ですよね。どういう資金計画で行われたのですか。

根津公一: その質問が出ないように願っていたのですが(笑)。美術館というのは財政的に非常に苦労しているところが多ございます。根津美術館は昭和29年、戦後新しい建物を建てたときに敷地がほぼ半分になりました。売却しているんです。そうしてお金をつくって建てたのです。

今回も悩みました。財産として一部株式がございますが、基本的には美術品と土地しかございません。土地を売ることも考えましたが、今回これは絶対やめようと思いました。となると、美術品を売るということになります。欧米の美術館では所蔵品を売って、そのお金でコレクションの充実を図るということをよくやっております。日本ではそういうことをやっている美術館は少ないのですが、今回、我々はそちらを選択しました。

では何を売ったかというと、2階の廊下に大きなキラキラした清朝時計が3つ飾ってございますが、これは全部で20台ぐらいのコレクションになっておりました。この中からカタログに載せていた5つを残し、残りをクリスティーズのオークションにかけたところ、予想以上に高く売れました。そのお金を全部使いました。

所蔵品を売るには理事会の承認も必要ですが、文化庁の承認を得なければなりません。それから財団法人は無税ですから、税務署にも「この美術品は将来の美術館のコレクションにとって必要ない」ということを確認しなければなりません。これら全ての手続きをとって売却したのです。

米倉誠一郎: すばらしい時計ですし、コレクションとして愛着もある。でも世界に打って出るために「根津美術館の特徴は何なのか」と考えると要らないものかもしれない。勇気を持って必要がないものは売ろうと、選択と集中をしたわけですね。本来あるべきものにお金を使うというのはとても大事なことで、これはまさに経営学の要諦です。今、日本の大企業では選択と集中が全然進んでいません。やはりこの話は経営者に聞かせたい(笑)。
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伝統と現代の融和を求める旅

~館長・根津公一×建築家・隈研吾VS米倉誠一郎 新創事業の全貌を語る~

日本元気塾セミナー in 根津美術館
伝統と現代の融和を求める旅
根津公一 (根津美術館 理事長兼館長)
隈研吾 (建築家)
米倉誠一郎 (日本元気塾塾長/法政大学イノベーション・マネジメント研究科教授/ 一橋大学イノベーション研究センター名誉教授)

3年半に及ぶ休館を経て2009年10月に新創オープンした根津美術館に、日本元気塾塾長・米倉誠一郎氏と実際に訪れるフィールドワークセッション。 昭和16年(1941)、初代根津嘉一郎氏の遺志によって南青山に開館し、国宝7件、重要文化財87件、重要美術品96件を含む、約7千件の日本・東洋の古美術品によ....


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