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野中郁次郎氏が語る、未来を経営する作法~美徳のイノベーション~

VISIONARY INSTITUTE - 2010 Seminar

更新日 : 2010年09月28日 (火)

第2章 知の創造に必要な4つのプロセス

野中郁次郎氏

野中郁次郎: 「知識創造理論」を簡単にレビューすると、知識創造は暗黙知と形式知の相互変換運動である、ということです。知識は経験と論理によってつくられます。主観的、身体的な経験知のことを「暗黙知」と言います。思いやメンタル、熟練やノウハウなど、言語では語り切れない知のことです。

他方、「形式知」は極めて明快に言語化、客観化できる理性的な知のことで、普遍性を求めていくものです。これは概念や論理、問題解決手法やマニュアルであり、コンピュータで表現できます。

この2つは通底していますが、アナログとデジタル、経験と言語というような対照的な性格をもつので、そこにダイナミクスが起こることになります。暗黙知と形式知を絶えずスパイラルアップさせることが知の源泉、知の創造プロセスの基本になるのです。

「知の創造プロセス」には4段階あります。
【1】身体五感の直接経験によって暗黙知を獲得する「共同化(Socialization)」。経験を通じて現実に共感する、経験を共有するということは、相手の視点に立つ、あるいは感情移入することに近いので、自分を超えた新しい気づきを獲得できる可能性が高まります。

【2】しかし、気づきはあくまで主観ですから、対話や思索を通じて背後にある本質をとらえ、新しい視点を持った言葉に練磨しなければなりません。これが2つ目のプロセスで、本質を普遍化・言語化・概念化する「表出化(Externalization)」です。

【3】さらに、コンセプトを関連づけながら体系化する。すなわち、形式知を徹底的に組み合わせてシステムにしていくのが3つ目のプロセス「連結化(Combination)」です。情報と概念の体系化、理論化を行うのです。

【4】こうして体系化された形式知を、行動を通じて技術、商品、ソフト、サービス、経験などに具現化・価値化し、新たな暗黙知の理解や実践につなげていく。これが4つ目のプロセス「内面化(Internalization)」です。

このように、絶えずアクションを通じて知を血肉化すると同時に、組織や環境の新しい知を触発し、再び「共同化」につげていくのです。プロセスを通じて経験という個人知が対話を通じて集団知に膨らみ、さらに分析および時空間やITを通じて組織知になり、そのうえでもう一度個人に還る。と同時に、組織知も豊かになり、社会知も豊かになっていくのです。

「共同化(Socialization)」は共感、
「表出化(Externalization)」は言語化、
「連結化(Combination)」は個人知を組織知にすること、
「内面化(Internalization)」は組織知の実践です。

この4つのプロセスの頭文字をとって、我々は組織的知識創造のプロセス=SECI(セキ)モデルを提唱したのです。「イノベーションはSECIスパイラルだ」ということです。このSECIの高速回転化が、創造性と効率性をダイナミックに両立させるのです。

SECIモデルはどこからスタートしてもいいのですが、「共同化」から始まるのが基本です。4つのプロセスはどれも重要ですが、「共同化」、つまり共感のプロセスがもっとも重要だということが最近わかってきました。
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野中郁次郎 (一橋大学 名誉教授)

野中 郁次郎(一橋大学 名誉教授)
2007年の『ウォール・ストリート・ジャーナル』誌で「The most influential business thinkers(最も影響力のあるビジネス思索家トップ20)」に選出された野中郁次郎氏のご講演です。


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