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行政のムダを斬る「事業仕分け」の本番はこれからだ!

~行政刷新会議事務局長が目指す本当の改革~

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更新日 : 2010年06月04日 (金)

第3章 『心のノート』の無駄と、道徳教育の否定は違う

加藤秀樹氏

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加藤秀樹: 国の仕分けについてはようやく2008年の夏前、自民党の中に「無駄撲滅プロジェクトチーム」ができました。「厚労省、農水省、国交省、その他」の4班がつくられ、「その他」のリーダーに河野太郎さんがなりました。すぐに河野さんは「加藤さん、事業仕分けをやりましょう」と私に電話をかけてこられました。

当時は福田政権の末期の頃です。もういつ選挙があるかわからない。政治家はみんな、時間があれば地元に帰って選挙運動をしていました。だから地元近くの議員でなければできないということで、河野さん(神奈川15区)は東京や神奈川近辺の1年生議員を中心に若手を10人ぐらい集めて「河野チーム」をつくりました。それで文科省、環境省、財務省、外務省+ODA、この4省について半年間で事業仕分けをしたのです。

仕分けといっても、議員には全く何の知識もありませんでした。だから最初は河野さんの部屋に集まって、まずは文科省の人に来てもらって、数日間、本当に朝から晩まで缶詰になってヒヤリングしました。

と同時に、構想日本のスタッフをいろいろな現場に派遣しました。例えば高知の元教育長で教育現場のことをよく知っていて、しかも実情をきちんと我々に話をしてくれる人がいるというと、構想日本のスタッフを派遣して聞いてくる。そのような現場の状況を議員にフィードバックし、情報を共有して実際の仕分けの場に臨んだわけです。

集められた議員は、最初はみんな嫌そうでした。他の議員は選挙運動をしているのに加え、だいたい文科省の仕分けをして自民党内で「この事業は無駄だから止めましょう」などと言ったら、党内の文教族からたたかれるに決まっている。選挙の前にこんなことをして、ろくなことない——みんなそういう感じでした。

しかし、いざ1カ月余り後に文科省の役人と実際に事業仕分けをしたら、何とほとんどの議論で文科省の役人に「勝った」のです。なぜなら彼らは現場の話をかなり聞いていたからです。

例えば道徳教育関連予算。これは全部で数十億円の予算で、そのうち確か6億円ぐらいが『心のノート』という文科省がつくる教材費に当てられていました。

『心のノート』について現場の人に聞いていくと、「あの教材は悪いけど使えない」とか、「うちの学校では今や梱包を解かずに捨ててるような状況。そういう学校、多いよ」と返ってくる。いろいろなところに聞きに行きましたが、本当に5~6割は捨てているに近い状態だったのです。ということは6億円のうちの半分、3億円はゴミになっているということです。文科省の人はそういう事情を知らないのです。

こうなると河野さんに呼ばれて渋々やっていた1、2年生議員が「俺たちは官僚を議論で打ち負かせたぞ。結構いけるじゃないか」みたいな感じで盛り上がってきました。それでも役人が四の五の言ってくると、「あいつら何だ」と腹が立ってくるわけです。最初は渋々だったけど勉強したら面白くなって、次に、官僚の理不尽な言い分に対して義憤を覚えるようになったんです。

河野チームがこの仕分け結果を「発表したい」と言ったら、当時の政調会長代理に「そのまま発表したら党内が大変なことになる。まず自民党の文教部会を説得できれば発表してよい」と言われました。そこで河野さんたちが文教部会に説明したら、何とみんな納得したんです。

最初は文教部会の人は「一体どういうつもりだ。道徳教育を否定するつもりか」といった反応でした。それに対して河野さんらは「別に道徳教育を否定しているわけじゃない。道徳教育という項目でついている十億円はこういうことに使われていて、例えば『心のノート』というのは現場での評判が悪く、あまり使われていない。我々はそれを無駄と言っているだけで、道徳教育が不要だとか否定しているわけではない」と説明したのです。文教部会の議員も、結局現場のことはあまり知らなかったのです。それで「そうか、そういうことだったのか」というケースが多くあったのです。それでチームのメンバーたちは、ますます自信をつけていきました。

文科省について1カ月半ほど勉強しただけで、それまで党内で最も専門家とされていた文教議員を説得できたということです。これはつまり、文教族や道路族といっても官僚経由の情報は多く知っていても、実際に現場で金がどう使われているか、事業がどう行われているかというのは、実はあまり知らないということだと思います。

こうやって見てくると、この議員たちの政治家としての成長は、非常に素晴らしいのもがありました。ですのでどの党であれ、1年生議員には、まず仕分けをやってもらうのがいいんじゃないかと私は思います。

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加藤秀樹 (構想日本代表/行政刷新会議事務局長/東京財団会長)

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