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新書本—軽装な冊子が森羅万象を映す

ブームの理由から“おすすめの新書本”をすすめる新書本まで

更新日 : 2010年04月13日 (火)

第7章「書物の世界を掌握する装置」としての目録

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澁川雅俊: 図書目録とはどういう働きをするのでしょうか。

私たちはいま日常生活での必需品を、商品として販売されている物やサービスから調達します。調達するには私たちの身の回りにどんな商品があるかをよく知っておく必要があります。しかし一言で商品といってもその広がりは生半可なものではありません。商品の種類だけでも莫大な数になり、個別的な商品は無数です。

例えば「子どもの誕生日のホームパーティに、可愛いらしくて美味しいアイスクリームをデザートに用意しておきたい」と思ったお母さんがいるとします。彼女は自分の経験からあれこれと品定めをするでしょうが、デパ地下あたりのアイスクリーム売り場に出かけてみるかもしれません。しかしそこでは選択幅が限られてしまいます。

そこで、いまどきの人ですから、おそらく〈お取り寄せのアイスクリーム〉でインターネット検索をするでしょう。そして彼女は、人気のアイスクリームを扱う通販サイトを見つけます。ここにカタログあるいは型録などと当て字されることがある目録の重要性が浮かび上がってきます。

それは、目録が私たちの身の回りにあるあらゆるものごとの一覧表であり、検索ツールでもあることです。つまりそれは、私たちが日常生活で必要とするものごと全般に何があるかを概観でき、またその中からいま必要なものごとを1つ2つ探し出すことができる装置です。

もしそういうものがこの世になかったら、私たちはいつも体験的に知りえたものごとを頼りに生きていくほかありません。それはおそらく非効率的な方法という以外の何ものでもありません。

【書物は森羅万象を写す】

私たちの身の回りにあるあらゆるものごとについては、人類がこれまでに知的にも身体的にも知り得たあらゆるものごとと、それらによって創り出したあらゆるものごとを包括していることと理解していいでしょう。それらがどれくらいあるのか数え上げることができないほど多くが宇宙間に存在するので、「森羅万象」などという四字熟語で表現しています。そして本は、人類の認知・認識の結果を記録しているものですから、それは森羅万象を写していることになります。

そのように広大無辺な世界を掌握するのを、本を通じて行うというアイデアが生まれます。事実『目録の歴史』(澁川雅俊、1985年勁草書房)では、ヘレニズム世界のありとあらゆる文物を収集・蓄積する目的で紀元前4世紀に創立された古代アレクサンドリア図書館で編纂された『ピナケス』他、たくさんの図書目録のサンプルが調べられています。

とりわけ16世紀の博物学者コンラッド・ゲスナーが編纂した『万有文庫』は、当時の西欧とイスラム世界に存在するあらゆる書物(個人文庫や大学・修道院図書館、印刷者の販売目録など)でその存在が確認できたすべての書物の型録(書誌データ、つまり著者・書名と刊行物については印刷関連データを記載して、著者名のアルファベット順に排列したリスト)をリストしています。

つまりそれは本の世界をあまねく掌握する意図の下に、この世に存在するすべての書物を集めて、一覧しやすいように、また特定のものを検索しやすいような装置を作ろうとしたのです。

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