記事・レポート

『美』という21世紀の文化資本

今、日本人が見失ってはならないこと

更新日 : 2010年02月01日 (月)

第3章 世界が注目する日本の美

福原義春氏

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伊藤俊治: 先ほどパリのポンピドゥ・センターでの例を挙げましたが、美意識という日本の資源があると思うのです。その特性がどういうもので、どう生かしていったらいいのかということをちょっと考えたいと思います。

そこで海外の例をもう1つ。今年(2009年)の4月までロンドンのサイエンス・ミュージアムで、「JAPAN CAR 飽和した世界のためのデザイン」という展覧会が行われていました。キュレーターをしたグラフィックデザイナーの原研哉さんが「日本の資源は美意識である」というタイトルで、この展覧会の報告を書いています。きょうのお話と重なるところがあるので、かいつまんでご紹介します。

日本車というのは非常に考え抜かれた形と技術によってつくられたもので、その特性というのは一種凝縮性に特徴があるのではないか、という仮説を原さんは立てています。非常に磨き抜かれた形と技術による、ある種の凝縮性が日本車のデザインを支えていて、かつ環境に対する非常に負荷の少ないメカニズムとか、そういった創意工夫が日本車の中には集積されているということを原さんは言っているのです。

この展覧会では14台の日本車をすべてパールホワイトに統一して、共通の簡単な展示スペースに並べ、日本車を車というよりも1つの文化として表現していました。さまざまなメディアに取り上げられ、注目を集めました。

原さんはこういう仕事を日本の資源としての、一種の美意識を探り当てようとするアプローチだと言って、「21世紀の日本が、これからの世界で何とかうまくやっていくためには、美意識という独自の資源を企業が磨いていく必要があるのではないか」という問いを投げ掛けています。

日本にはインドや中国のように膨大な労働力があるわけではないし、天然資源もない。アメリカのようにマネーをテコにしていく複雑な経済の力もない。ヨーロッパのようにブランドという付加価値を巧みにコントロールしていくマネジメント能力もない。そんな日本が自信を持って世界と立ち向かえるものは何だろうと考えたとき、「それは美意識ではないか」と原さんは問い掛けたのです。

失業率、資源確保、人件費、雇用形態などの問題が騒がれていますが、今、日本が見つめなければいけないのは、「これからどういう美意識のもとに、どういうものをつくり出して、どういうサービスを具体化していくのか」ということではないかと思います。

私は美術が専門ですので、日本がこれまで長い時間をかけて生み出してきた、簡潔で、丁寧で、清浄で、緻密で、豊かな美意識を現在に蘇らせたいと考えているのです。

日本の美意識というのは、お華、茶の湯、禅、能だけではなく、車、家電、インテリア、ホテルなどのホスピタリティやサービスなど、さまざまな形の付加価値として、これからの時代に大きく注目されるべきものではないかと考えているのです。

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デザイン・プラットフォーム・ジャパン【編】,坂茂,原研哉【企画編集】
朝日新聞出版


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福原義春 (株式会社資生堂 名誉会長)
伊藤俊治 (東京藝術大学美術学部先端芸術表現科教授)

福原義春(㈱資生堂名誉会長)
伊藤俊治(東京藝術大学教授)


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