記事・レポート

サマーダボス会議 in 大連 報告会

~弱体化した日本の発信力。回復への提言

更新日 : 2009年11月04日 (水)

第7章 アイデアをビジネスにする“マルチ・ステークホルダー”

2009年9月18日開催 サマーダボス会議 in 大連 報告会 アカデミーヒルズ49F会場にて

竹中平蔵: 日本の今後にとって参考になる議論がいろいろありました。あるイタリアの方から言われたのですが、ミシュランが星をつけた東京のレストランに関心がある、だから日本に行ってみたいと言うんです。

私たちの食文化を産業化しているのがレストランです。産業化するには、もちろんシェフがいなければいけませんが、舌の肥えた利用者もいなくていけないし、忘れてはならないのは、シェフが料理する素材を提供する優秀な農業がなければいけないということです。3つ星を取ったある寿司店では、9種類のお米をブレンドしているそうです。そういうもののうえに3つ星レストランが成り立っているのです。

われわれが持っている文化や見えないソフト・パワーを、いかに産業化するかという競争に、彼らは大変関心を持っているんだと思います。暗黙知を形式知にして、それをビジネスにしていくところに日本の面白さを感じているんですね。そういうポテンシャルを日本は持っていると思います。

しかし日本はそれを産業化するプロセスが規制でがんじがらめなんです。しかも、そういうところになかなかお金が回らないシステムになっています。そういう一種の文化比較、産業比較の場でもあって、まさにニュー・チャンピオンの議論にふさわしい場だと思いました。

それを受けて私たちは、暗黙知を形式知にするのを阻んでいる要因は何なのかを議論しなければいけません。そういうものを抽出するプロセスが、私は大変大事だと思いました。

石倉洋子: 日本のファッションも進んでいるといわれています。優れたデザイナーもいるし、優れた消費者もいる、アイデアもある。でも、それが世界的に大きなビジネスにつながっていない。それは多分、デザインからアパレルを流通するまでのバリューチェーンの「間」をつなぐ部分のビジネスモデルができていないからだと思うのです。そういう意味では『ユニクロ』は新しい時代のニュー・チャンピオンで、新しい日本を代表して世界に打って出る企業だと思いました。

竹中平蔵: 『ユニクロ』といえば、佐藤可士和さんがプロデュースする店が今年(2009年)10月にパリのオペラ座のすぐそばにできるそうです。ダボス会議に行っているのは、佐藤可士和さんのような方なのです。

これが私たちの社会に今まであまりなかったところで、ダボス会議の言葉を使えば「マルチ・ステークホルダー」なんです。大臣も学者もビジネスマンも大事だけれど、文化人、クリエイター、ミュージシャン、NPO、NGOなど、そういう人たちが行って、1つのグローバル・アジェンダについて議論をする。そういう場から、今までの発想を超えた新しい知恵が生まれてくるのです。

関連書籍

戦略シフト

石倉洋子
東洋経済新報社

関連リンク


該当講座

サマーダボス会議 in 大連 報告会
石倉洋子 (一橋大学名誉教授)
竹中平蔵 (アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学名誉教授)

石倉 洋子(一橋大学大学院国際企業戦略研究科 教授)
竹中 平蔵(アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学教授)
ダボス会議を主催する世界経済フォーラムが東京に事務所を開設することを機に、ダボス会議の前線で議論されていることは何なのか、日本はどのように世界の課題に貢献できるのかについて考えるセミナーです。今回は、9月10日~12日に中国・大連で開催されるニュー・チャンピオン年次総会(サマー・ダボス会議)で何が議論されたか、石倉氏と竹中氏が解説します。


アカデミーヒルズセミナー 政治・経済・国際