記事・レポート

サマーダボス会議 in 大連 報告会

~弱体化した日本の発信力。回復への提言

更新日 : 2009年11月04日 (水)

第5章 日本の経済人が不在ということに、危機感をおぼえる

竹中平蔵氏

竹中平蔵: 最近のダボス会議では、日本の経済人の存在感が非常に薄くなっていることを私は懸念しています。

ダボス会議を日本に広く紹介したのは、ソニーの盛田昭夫さんだったと思います。盛田さんは当時の日本の経済界を代表する顔でしたが、今の大企業のCEOはこういう会議になかなか行かなくなっているのです。

サマーダボスも含めてダボス会議の本当に重要な意味は、会議の裏側にあります。プログラムに出ない非公式の会合がたくさんあるのです。集まったCEOは世界の潮流について勉強しながら、そこでしか議論できないようなプライベートな会話をしているのです。

例えばWTO(世界貿易機関)の非公式会合は、ダボス会議と並行して行われています。日本の大臣は最後の公式プログラムにしか出ないのですが、その前に行われる非公式の会合でほとんど決まってしまうのです。

私が一度、代理でG20の財務大臣の非公式会合に出て驚いたのは、ファーストネームで呼び合い、フランクな会話をしていたことです。いいか悪いかの問題ではなく、これが事実なんです。やはりインフルエンシャル・サークル(影響力を与えるグループ)の中に入っていかなければ。私は「ダボスの裏庭」と呼んでいるのですが、そういう場所があるということを認識しなければいけないと思います。

世界のCEOだけが参加できる特別の昼食会というのもあって、100人ぐらい出席していました。私はダボス会議のボードメンバーということで特別参加を許されたのですが、隣に座った方は、チャイナモバイルのCEOでした。そういう方とフランクに議論ができる、こういう場に出る日本のCEOがほしいのです。それが実は日本のIRになるし、同時にその会社にとって重要な戦略を議論する場所にもなるからです。

人的なコンタクトを通して大規模なM&Aが成立したり、新しい提携先が見つかったりするチャンスを残念ながら日本の大企業は逃していると思います。

石倉洋子: 日本の経済人の存在感がないことは、私も同感です。こういう会議は、初めて行った時は何が何だかよく分からないのです。「裏庭」でいろいろなことが起こっているらしいのですが、誰も教えてくれません。そこで、一度だけ「見にいく」のではなく、何回か続けていってみることが必要だと思います。

私は以前、「ダボス会議は暗黙知の宝庫」と書いたことがあるのですが、日本の経済人は暗黙知を好むのに、なぜダボスのような素晴らしい暗黙知の交流の場に行かないのか、というのは大きな疑問です。

最近出した『戦略シフト』という本に、「21世紀は、スピード、世界とのつながりという点で、世の中が様変わりし、今までとは全く違う世界が拓かれつつある。こうした時代に期待できるのは、大企業のエスタブリッシュのトップじゃなくて、新しい世界を体感している若い人です」と書きました。若い世代がどんどん外へ出て行って自ら経験を積むことが大事だと思います。なるべく若い時から、外へ出て行って議論をする。個人として勝負する場に直接触れる、どれだけ個人として意見を述べる、議論を戦わせる経験をたくさん積むか、それが長期的には鍵になると思います。

関連書籍

戦略シフト

石倉洋子
東洋経済新報社

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該当講座

サマーダボス会議 in 大連 報告会
石倉洋子 (一橋大学名誉教授)
竹中平蔵 (アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学名誉教授)

石倉 洋子(一橋大学大学院国際企業戦略研究科 教授)
竹中 平蔵(アカデミーヒルズ理事長/慶應義塾大学教授)
ダボス会議を主催する世界経済フォーラムが東京に事務所を開設することを機に、ダボス会議の前線で議論されていることは何なのか、日本はどのように世界の課題に貢献できるのかについて考えるセミナーです。今回は、9月10日~12日に中国・大連で開催されるニュー・チャンピオン年次総会(サマー・ダボス会議)で何が議論されたか、石倉氏と竹中氏が解説します。


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