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カフェブレイク・ブックトーク「心に沁みることばの数々」

~決意を促す言葉、気が利く言葉~

更新日 : 2009年10月30日 (金)

第2章 まず、ビジネスにかかわる名言集

六本木ライブラリー カフェブレイクブックトーク 紹介書籍

 
●わが国トップリーダーのことばの数々

澁川雅俊: ではどんな本が、どんな名言を収録しているのでしょうか。ちょいと見には、ビジネスの上手な展開にかかわる名言の本が最近多く出されているようです。

まず『名経営者の至言-心に書きとめておきたい』(日経BP社)や『人を動かす「言葉力」-プレジデント名言録「200」選』と『人を動かす「言葉力」-プレジデント名言録「200」選〈その2〉』(プレジデント社)があります。これらはビジネス誌などが取材した日本の経営者たちや各分野のトップランナーたちのインタビューから心に沁みる、心に響く、あるいは人を鼓舞することばを抽出、編纂しています。『カンブリア宮殿 村上龍×経済人 社長の金言』(日本経済新聞出版社)も同系列の本ですが、これはテレビ東京の番組でのインタビューが素材になっています。

これらの本で取り上げられている人びとには、例えば松下幸之助、本田宗一郎、井深大など、すでにビジネス界では偉人伝に列せられる経営者もおりますが、多くは各界で活躍している旬のビジネスパーソン、学者、作家、評論家、さらに教育・文化事業各分野のトップリーダーで、親近感があります。

親近感はしかし、両刃の剣のように、しばしば易きに流れることがあり、また現時点の名声だけでメディアが取り上げた人物が、例えば違法な政治献金や道義的問題を含む商取引など、危ういことに手を染めていたことがわかったりすると、後からそれらの人たちのことばに接して鼻白むことになったりもします。

世界のトップリーダーの名言を編纂収録しているものもあります。『世界のトップリーダー英語名言集 BUSINESS-夢を実現せよ、人を動かせ、創造せよ』(Jリサーチ出版)などです。これにはビル・ゲイツなど、海外の著名人百人以上のことばが収録されています。“Yes, we can!”は直近の世界的名言ですが、米国最大の化粧品メーカの創始者メアリー・ケイ・アッシュが“If you think you can, you can. And if you think you can't, you're right.”と言っていたことを知り、何となく「名言は繰り返される」想いを懐きました。

トップリーダーたちは初めからそうだったわけではなく、トップに立つまでに様々な失敗をしています。『働く理由-99の名言に学ぶシゴト論』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)や『人生の転機-会社生活を成功に導いた18の言葉』(新潮社)は、ミドルレベルの人たちのことばを収録していますが、仕事でつまずいたときや何のために毎日仕事をしているのかなどに悩んで鬱々としている人たちを鼓舞することでしょう。後者のなかで今は世界一のピッチャーとなった松坂大輔が、レッドソックスへの入団が決定したときに言ったことば、「夢という言葉は好きではない。夢は見るものでかなわないもの。ここで投げられると信じてきたから、ここに来られた」は心に沁みますね。

●ビジネス・ウォッチャーの名言集

自らはビジネスパーソンではないが事業・経営の名言を発している人たちもいます。その代表はビジネス界に数多くの名言を遺した巨人、ピーター・ドラッカーです。彼の著作は実に多く(ライブラリーにも50点ほど架蔵)、そのほとんどがわが国でも出版されていますが、名言ということであれば、『ドラッカー名言集〔仕事・経営・変革・歴史〕の哲学』の4冊、『ドラッカー365の金言』や『プロフェッショナルの原点』(いずれもダイヤモンド社)などがあります。

またやサラリーマンものをよく書いた小説家城山三郎が自らの作品の中から『人生の流儀-ビジネスマンに贈る珠玉の言葉』(PHP研究所)をまとめています。一流の文学者はやはりものごとを明視しており、心に沁みることばを小説の主人公たちに言わせています。

その一方で、無名の人たちが提起していることばもあります。『浜口直太のビジネス金言集〔元気になれ・越えて行け〕』の2冊(シ-アンドア-ル研究所)や『一〇〇〇の言葉-希望、夢、健康のヒントがいっぱい』(文芸社)などがそれにあたります。名言もありますが、迷言も含まれているように思えます。またあるコンサルタントは、一般に知られている四字熟語の中から百語を選び、『使える!社長の四字熟語100選-経営に効く本!』(こう書房)という本を出しています。ただしこの本には四字熟語の本来の意味をよく調べないで通説に基づいて説を立てているものもあり、いささか食い足りないものもありました。

ビジネスの「法則」本
マーフィーの法則というものがあります。それは、少し大げさに言えば、人類のこれまでの行いの蓄積から導き出された経験則を、例えば「傘を買った途端に雨が止む」のように、ユーモラスでしかもペーソスあふれる短文で、いつも「何々するときには、いつも(あるいは、必ず)何々してしまう(結果に終わる)」というふうに表現しています。

「法則」と呼ばれていますが、これもまた「名言」の範囲内でしょう。代表的なものに『21世紀版マーフィーの法則』(アスキー)があります。この法則は90年代に米国から輸入されて以降、主にビジネス行動にかかわるものとして捉えられているようです。その線上に最近の『知っているようで知らない「法則」のトリセツ』(徳間書店)や『コーヒーとサンドイッチの法則-「利益を獲得する」ための6つの戦略』(東洋経済新報社)などがあります。これら法則は常にビジネスを成功に導く法則という観点からまとめられ、よく読まれているようです。

しかしマーフィーズ・ロゥは本来日常生活全般にわたっての法則であり、「犬も歩けば棒に当たる」、「論より証拠」、「花より団子」、「憎まれっ子世に憚る」、「骨折り損の草臥れ儲け」などの名句を含んだ「江戸いろはがるた」を連想させます。

ところでこれは少し前に出版されたものですが、グレートブックス・ライブラリーに全24巻の『商売繁盛大鑑-日本の企業経営理念』(85年同朋舎)があります。この大著には江戸時代の商家や豪農における経営の知恵がまとめられています。最近のビジネストップリーダーたちのことばもさることながら、ここに掲げられている歴史的な名言はみな少しも古びていません。ふと「温故知新」なる有名四字熟語が頭に浮かびます。

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