記事・レポート
加藤良三氏の「アメリカと野球雑感」
~野球と国際政治を10倍楽しむ方法~
更新日 : 2009年10月29日
(木)
第4章 なぜアメリカは世界の課題を解決しようとするのか
加藤良三: 私は43年間の外務省生活のうち、殆どが何らかの形でアメリカに関わるポストにありました。が、だからといってアメリカのことがわかるとは思っておりません。アメリカは、そういうことでアメリカ通になったり、知米派になったりすることを許さない国だと思っております。アメリカに対する知識、経験というものに対して、私は謙虚であるべきだと思っています。ただ、あえて申し上げると、2つの特色があると思います。
1つは朝河貫一先生が今から100年以上前、1907年におっしゃっていることですが、アメリカには日本やヨーロッパの国と比べて、自分たちが立ち戻るべき歴史上の神話の故郷がないのです。
日本には神武天皇をはじめとして豊かな神話の世界がある、ヨーロッパの主要国にも神話の故郷がある、でもアメリカにはそれがないのです。ジョージ・ワシントンが初代大統領だといっても、その任期は1789年から1797年です。つい昨日まで隣にいたような人です。
朝河先生の言葉になりますが、「アメリカは、それ以上触れてはならない不可思議な国の伝説というものを持った国ではない。そういう伝説や神話のふるさとを持たない国であるがゆえに、現在価値を高めるべく生きる。アメリカの価値というのは指導者がどれだけ英邁か、アメリカの議会や司法界、その他の人たちがいかに現実に価値を生み続けるか、それに徹する国である。現在価値で勝負する国で、そういう国はほかにない」との趣旨を述べておられます。これは100年前の言葉ですが、私は今でもそうだと思います。
アメリカのいい学生ほど勉強する学生は世界にいないのではないでしょうか。アメリカの考え方にしばしば縦の切り口、深みのある切り口が足りないと言われますが、それは以上に申し上げたことと関係があるかもしれません。
しかし「現在価値で勝負するアメリカ」というのは、現実に人類が直面する課題を「解決」しようとする意欲と能力において抜きん出た国になりますし、実際なっていると思います。問題を分析し、整理し、コメントする。ここまでは誰にでもできるし、比較的簡単です。ところが問題は、あったら解決しなければならない。そういう決意と意欲をもって、その能力を発揮するという点において、国際機関も含めてアメリカの右に出る存在というのは、まだこの世界にはないと思うのです。
それが、基本的に日本にとっては米同盟が必要不可欠、外交政策上の柱である、と思う所以です。
もう1つのアメリカの特色は、2軸型の国家ということです。日本やヨーロッパの国などは、頂点が1つあって、ピラミッド型に秩序が組み上げられるということが安心・安定の前提になる国だという気がいたします。しかしアメリカはそれとは逆に、中心が2つある、2軸型の国家だと思います。1つの極ではなくて、自分の国の中に2つのお互いに競合し合うものがないと、安心できない国だと思います。
政党でいえば、アメリカほどの人種、宗教、文化の多様性を考えたら、200ぐらい政党が乱立しても不思議はないのに、ジョージ・ワシントン以来、(名称こそ時代によって異なりますが)基本的に共和党と民主党の2つです。
アメリカでは、この2つの政党があらゆる課題に対して、お互いの立場を表明し合うわけです。これは構造的にかなり無理があると思いますが、しかし実際そうなっています。堕胎の問題、銃刀法の問題、宗教の問題、移民の問題、医療の問題、国際問題、何であれ森羅万象について、とにかく2つの政党が全て政策として表明しなければならない。その時代の最も重要なイシューとアメリカ国民が思うもののどちらを選ぶかで、民主、共和いずれが天下をとるかが決まるということです。
イシューというものは時代によって何が一番大事か変わりますし、イシューが変わるにつれて、政党の中身もまた変わります。政党名など細かいところは別にして、乱暴にいうと、1801年に3代目大統領に就任したトーマス・ジェファソン以来60年間は民主党のアメリカです。1861年にリンカーンが出てから約60年間、今度は共和党のアメリカになります。そのあとフランクリン・ルーズベルト(1933年就任)のときに大連立政権みたいなものができますが、民主党の政権です。そして、レーガン(1981年就任)の保守主義というものがあって、今日に至っています。初代共和党大統領リンカーンの政策は、今民主党といわれる党の政策です。第40代共和党大統領レーガンの政策は、リンカーンと正反対の部分が多い。
冷戦が終わり、世界情勢がグローバライゼーションを含めていろいろ変わってきている今、共和党・民主党が今後どういう政策を表明し、誰が大統領職に就き、どうなっていくか。今アメリカはまた新しい転換点に差し掛かっていると思います。
1つは朝河貫一先生が今から100年以上前、1907年におっしゃっていることですが、アメリカには日本やヨーロッパの国と比べて、自分たちが立ち戻るべき歴史上の神話の故郷がないのです。
日本には神武天皇をはじめとして豊かな神話の世界がある、ヨーロッパの主要国にも神話の故郷がある、でもアメリカにはそれがないのです。ジョージ・ワシントンが初代大統領だといっても、その任期は1789年から1797年です。つい昨日まで隣にいたような人です。
朝河先生の言葉になりますが、「アメリカは、それ以上触れてはならない不可思議な国の伝説というものを持った国ではない。そういう伝説や神話のふるさとを持たない国であるがゆえに、現在価値を高めるべく生きる。アメリカの価値というのは指導者がどれだけ英邁か、アメリカの議会や司法界、その他の人たちがいかに現実に価値を生み続けるか、それに徹する国である。現在価値で勝負する国で、そういう国はほかにない」との趣旨を述べておられます。これは100年前の言葉ですが、私は今でもそうだと思います。
アメリカのいい学生ほど勉強する学生は世界にいないのではないでしょうか。アメリカの考え方にしばしば縦の切り口、深みのある切り口が足りないと言われますが、それは以上に申し上げたことと関係があるかもしれません。
しかし「現在価値で勝負するアメリカ」というのは、現実に人類が直面する課題を「解決」しようとする意欲と能力において抜きん出た国になりますし、実際なっていると思います。問題を分析し、整理し、コメントする。ここまでは誰にでもできるし、比較的簡単です。ところが問題は、あったら解決しなければならない。そういう決意と意欲をもって、その能力を発揮するという点において、国際機関も含めてアメリカの右に出る存在というのは、まだこの世界にはないと思うのです。
それが、基本的に日本にとっては米同盟が必要不可欠、外交政策上の柱である、と思う所以です。
もう1つのアメリカの特色は、2軸型の国家ということです。日本やヨーロッパの国などは、頂点が1つあって、ピラミッド型に秩序が組み上げられるということが安心・安定の前提になる国だという気がいたします。しかしアメリカはそれとは逆に、中心が2つある、2軸型の国家だと思います。1つの極ではなくて、自分の国の中に2つのお互いに競合し合うものがないと、安心できない国だと思います。
政党でいえば、アメリカほどの人種、宗教、文化の多様性を考えたら、200ぐらい政党が乱立しても不思議はないのに、ジョージ・ワシントン以来、(名称こそ時代によって異なりますが)基本的に共和党と民主党の2つです。
アメリカでは、この2つの政党があらゆる課題に対して、お互いの立場を表明し合うわけです。これは構造的にかなり無理があると思いますが、しかし実際そうなっています。堕胎の問題、銃刀法の問題、宗教の問題、移民の問題、医療の問題、国際問題、何であれ森羅万象について、とにかく2つの政党が全て政策として表明しなければならない。その時代の最も重要なイシューとアメリカ国民が思うもののどちらを選ぶかで、民主、共和いずれが天下をとるかが決まるということです。
イシューというものは時代によって何が一番大事か変わりますし、イシューが変わるにつれて、政党の中身もまた変わります。政党名など細かいところは別にして、乱暴にいうと、1801年に3代目大統領に就任したトーマス・ジェファソン以来60年間は民主党のアメリカです。1861年にリンカーンが出てから約60年間、今度は共和党のアメリカになります。そのあとフランクリン・ルーズベルト(1933年就任)のときに大連立政権みたいなものができますが、民主党の政権です。そして、レーガン(1981年就任)の保守主義というものがあって、今日に至っています。初代共和党大統領リンカーンの政策は、今民主党といわれる党の政策です。第40代共和党大統領レーガンの政策は、リンカーンと正反対の部分が多い。
冷戦が終わり、世界情勢がグローバライゼーションを含めていろいろ変わってきている今、共和党・民主党が今後どういう政策を表明し、誰が大統領職に就き、どうなっていくか。今アメリカはまた新しい転換点に差し掛かっていると思います。
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第4章 なぜアメリカは世界の課題を解決しようとするのか
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