六本木ヒルズライブラリー

【ライブラリーイベント】開催レポート
カーティス教授の政治シリーズ2017 第1回「トランプ政権のアメリカと日米関係」

ライブラリーイベント

日時:2017年4月11日(火)19:15~20:45@スカイスタジオ

1年の半分をコロンビア大学で教鞭をとり、半分を日本を拠点にして東アジアでのフィールドワークをされているカーティス教授の政治シリーズは、今年で11年目に突入しました。その2017年の第1回は、「トランプ政権のアメリカと日米関係」と題して、トランプ政権誕生から3ヶ月が経った今、見えてきたトランプ政権の特徴や日本や各国への影響力について語っていただきました。

トランプ政権の日米関係

一般的に、トランプ大統領のようなナルシスト的なリーダーは、イエスマンを周囲に集めて反対意見を聞かないものですが、トランプ大統領は、知識があって気が強い人を周りに配して、ホワイトハウスに意見の違う人がたちが牽制するような状況を作り出しているところが意外な側面であり、興味深いとカーティス教授は言います。さらにトランプ大統領は、イメージに反して人の話をよく聞くという特性もあるそうですが、そのいっぽうで成功するためには、平気で方向性を変える傾向もあるので解りにくいと言います。

選挙中には、為替誘導や貿易の不均衡、軍事費用の負担について日本を厳しく批判していたトランプ大統領ですが、選挙情勢が不透明な中、日本の政府高官が、トランプ氏の当選の折にはすぐに連絡したいとトランプ陣営に打診したそうです。この事をきっかけに、トランプ氏の心理的な壁を取り払い、後々トランプ政権との良好な関係を築くきっかけになったと言います。大統領選に当選後早期に安倍総理との会談が実現し、その際にトランプ氏が安倍首相と19秒間という長く固い握手をしたことが、ポジティブな関係を築けたことを表しています。

オバマ前大統領の人柄については様々な見解がありますが、ビジネスライクという評価が一般的で、そのため安倍首相は、オバマ前大統領との関係構築には苦慮していたとカーティス教授は見ています。さらに、トランプ大統領と英国、ドイツの首相陣が良い関係をつくる糸口がなかなかつかめない中で、安倍首相が19秒間の握手をできた要因は、「単にウマが合う」だけではなく、日本側が予めトランプ大統領を研究し、「褒められるのが大好きなナルシストの側面」を意識して、トランプ氏と意見の違う事には言及しないことに徹した結果だと言います。例えば、TTPの話は安倍首相から一切していないそうで、その結果、最初のトランプ×安倍会談は大成功という評価でした。



しかし、対立を避けるという対策で臨まなければならなかった状況をちゃんと考える必要があるとも言います。つまり、中国、韓国との外交状況を踏まえると、日本はトランプ大統領と仲良くする以外のオプションはない状況であり、そのために日本政府はトランプ大統領とうまくやる方法を十分に研究した上で、安倍首相がトランプ大統領を上手に立てながら日本の立場を守るアプローチに成功したとのだと言います。例えば、対米海外投資においては、金融を含めると英国からの投資金額が最多であるものの、製造業における投資で一番貢献しているのは日本であることという事実を上手に伝えたことなどが成功要因だったとカーティス教授は見ています。

この会談で日米同盟の重要性をお互いに再確認できたため、今のところは今後の日米関係について、あまり心配をする必要はないのではないかとの見解を示しました。

トランプ政権と諸外国

日本以外の諸外国と米国の関係については、トランプ大統領は、これまでのアメリカの方針であった世界のリーダーから方向転換をして、あくまで米国のリーダーとして外交政策を展開していますが、先日、アサド政権が化学兵器を使用したとしてシリアをミサイル攻撃しました。この攻撃の結果、ロシアとの関係性は悪くなる可能性がありますが、その反面、トランプ大統領にとって得する面もあるのだと言います。

例えば、アメリカのメディアはシリアへのミサイル攻撃を好意的に受け止めています。主要メディアでの意識調査の結果も、約半数がシリアへの対応の合理性を認めており、国内的にトランプ大統領の支持が高まり、結果的に得をしている状況にあるようです。

そして、オバマ政権時代にはあらゆる働きかけも成果がなかった北朝鮮への対応については、日米関係に支障を来す可能性があるため、米国はシリアと同じような対応を北朝鮮に対しては行わないだろうとカーティス教授は見ています。プレッシャーをかけつつも慎重なトランプ大統領の政策については、カーティス教授も支持しているとのことですが、北朝鮮が核兵器とミサイルを凍結すれば、米国は対話の用意があり、制裁のディスインセンティブだけでなく、同時にインセンティブの用意もあるということで、北朝鮮との対話の糸口を引き出すことも必要ではないかと言います。

外交においては、リスクの高い行動を取ることでリスクを軽減できることもあり、現在の北朝鮮の問題では、包括的なリスクマネジメントのアプローチが必要とのことです。

アメリカ国内の問題点

トランプ大統領は、もともと共和党のメンバーでもなく、どちらかというと民主党に近い考え方だったのだそうです。アメリカの大統領選で大変重要とされる予備選挙において、共和党をハイジャックしたような形で共和党候補となったため、共和党の大統領でありながら議会の共和党の人たちとはは意見が大きく違い、イデオロギーも違うそう。トランプ大統領の公約の目玉であったオバマケアの廃止についても、結局、代替法案がの共和党内で賛成が得られず、民主党にも全く協力する意思がないので、結局撤回することになりましたが、このように議会との関係がこのままでは、言っていたことがどこまで実現するのか全く分からない。

しかし、トランプが大統領になったのが問題ということではなく、こういう思想・政策の大統領を選んでしまった米国自体が問題であるとカーティス教授は言います。

現在のアメリカの政治に対して何がフラストレーションかというと、トランプ大統領に対してではなく、民主党に対してだと訴えます。カーティス教授はずっと民主党支持ですが、昔の民主党は、リベラル主義で、貧しい人、困っている人、労働者、中産階級の人たちを代表する政党でしたが、今は、リベラルという言葉が全く変わってきていると言います。今は、リベラルというと、男女平等、LGBTの権利、マイノリティグループの平等を考えるIdentity politicsがリベラルという意味に代わってしまっていると言います。

昨年8月の予備選挙のいちばん大事な時期、トランプ大統領はアメリカの中西部のRust Belt地域を廻り、労働者階級の人たちをあおっているとき、ヒラリー・クリントンは何をしていたかというと、東海岸のニューハンプトンの富裕層が集まる別荘地で毎晩資金集めのパーティを開催し、そこで集めた資金でテレビコマーシャルを放送するということをしていたそうで、リベラル主義はどこへ行ってしまったのか?これでは、トランプに負けてしまっても仕方がないのではないか?しかも、なぜ負けたかという反省がヒラリー・クリントンや民主党にないのが問題であり、また、メディアがそのことを取り上げないことも問題だカーティス教授は訴えます。

共和党はまとまらない、民主党には反省がないということが現在のアメリカの大問題だと言います。

カーティス教授の政治シリーズは、今年も3回にわたり開催予定です。次回は、東アジアの情勢についても考えていきたいとのことですので、ぜひご期待ください。


【スピーカー】ジェラルド・カーティス(コロンビア大学政治学名誉教授 )

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