キャリア・お金・ビジネスについての本
「街の本屋さんと同じように、新しい書籍にあふれている」六本木ライブラリーでは、とくに新鮮なビジネス書が人気の的になっています。中でも最も読まれているのは、個人のキャリア作りやお金についての本。不安な時代を生き抜くためのノウハウ本から経営学の古典までをレビューします。
プロのFP(ファイナンシャル・プランナー)にして、ブックカフェのオーナー、梶村陽一氏によるブックレヴュー。
金持ち父さんの予言
ロバート・キヨサキ、シャロン・レクター著、筑摩書房刊
これまでキヨサキ氏の「金持ち父さん」シリーズは読んだことがなかった。でもそれは単純にベストセラー本への警戒心からで、内容はそれなりに聞いていた。今回ついに買ってしまったのは、この「予言」が、エリサ法(DC年金プラン)とファイナンシャル・プランナー(FP)の批判から始まるからである。
しかし「予言」される株式の暴落以上に恐いのは、雇用者を守るという年金制度のまやかしであり、問題の先送りである。つまり日米共通の社会保障制度の根本的な欠陥である。この本は、そこまで描いており、さらに、それならばどうすべきかまで書いてある。ある意味で革命的な「金持ち父さん」シリーズ最新刊。これは凄い。
どうすべきか、というのは、一言でいえば政府や企業の力を借りることなく、自分の「方舟」をつくること、なのだが、そのために必須なのは、ファイナンシャル・リテラシーである。なぜか。第一部「おとぎ話はもう通用しない?」でくりかえされる「ある退職者からの素朴な質問」についてキヨサキ氏は、こう書く。
メディアがセンセーショナルに記事を書き立てる時、大衆は本当に重要な点を見逃すことが多い。なぜなら本当の問題は新聞の一面には載らないからだ。エンロンとそれに続くワールドコムの崩壊が取り沙汰されている間に、年金制度改革が抱える多くの弱点の一つが、同じ2001年12月2日付マイアミ・ヘラルド紙に取りあげられた。私にとっては、同紙に定期的に記事を載せている、正式な資格をもったファイナンシャル・プランナーに答えてもらうために一人の退職者が送った、次のようなごく素朴な質問の方が、エンロンの大失策より重要な意味をもっているように思えた。
70歳でIRA(個人退職年金)からお金を「引き出し始めなければならない」という質問者に、CFP(正式な資格をもったファイナンシャル・プランナー)は、「株や投資信託を売って毎月引き出さなければならない最低額」を送ってもらうようにと答えている。単純な話、2016年、7500万人のベビーブーマー第一陣が70歳に達した時、買い手が売り手よりも多くなる。つまり株式市場の需給が逆転するわけだ。年金制度の欠陥とFPの限界がここに明らかとなる。
1979年に、ウォーレン・バフェットは私にこう言った。「あの法律にはたくさん欠点があるが、その一つは、ファイナンシャル教育を受けるように人々に忠告していないことだ。フォード大統領とアメリカ議会は、法律を変えたものの、適切なファイナンシャル教育、つまりDC年金プランを利用する人に必要なファイナンシャル・リテラシー(お金に関する読み書き能力)を供給するように教育システムに命じなかった。その代わり政治家たちはファイナンシャル教育を施す仕事をウォール街の人間に任せてしまった。」
金持ち父さんは、皮肉たっぷりに「ファイナンシャル教育を与えてくれとウォール街の人間に頼むのは、狐に鶏を育ててくれと頼むようなものだ」と言ったそうだ。ファイナンシャル教育を他人に任せるな、そして鶏小屋の外の生活を選べ。それが金持ち父さんの教えだ。
鶏小屋の外の世界には、嘘つきやペテン師、無節操な人、臆病者、こそ泥、愚か者、負け犬、詐欺師などがたくさんいる。そこにはまた、聖者、戦士、高潔な人、勝者、天才もたくさんいる」と言い、さらにこう続けた。「鶏小屋の外で生きる道を選んだら、そういう人間すべてとうまくビジネスする方法を学ばなければならない。その理由は簡単だ。相手とビジネスしてみるまで、その人の正体はわからないからだ。
つまり、ファイナンシャル・リテラシーは教科書で知識を吸収して得られるものではなく、実社会の中で実践的に鍛えられて、初めて獲得できるものなのである。そのことを理解した上で、第二部「方舟を造る」に進もう。これも極めて実践的な内容である。出来合いの物ではなく自分で自分の「方舟」を造り、コントロールすることがすすめられる。というより、自分で「コントロール」することの重要性がわからなければ方舟の意味がないのだ。そのために「安全と自由」に関する次の一節がある。
金持ち父さんは「安全」と「自由」は同じ言葉ではなく、実際のところほとんど正反対だと言っていた。そして、「安全を手に入れれば入れるほど、きみは自由を失う」と言ったり、「安全を求める人は、多くの場合、人生の一部を自分でコントロールする力を放す。そしてコントロールする力を手放せば、それだけ自由も減る」と言っていた。
ふと気がついた。キヨサキ氏が「方舟」といっているのは、大小に関らず「資本」なのではないか?キヨサキ氏がすすめているのは「資本家」になることではないか?政府の社会保障も企業の雇用(退職後の年金)も頼りにせず、「ビジネス」でも「不動産」でもいい、キャッシュフローを生み出す本当の「資産」を獲得することは、「資本家」の心得ではないのか。「(機関)投資家」ではない「資本家」である。いやはや。
そう思ってみると、「バフェット流の方舟操縦法」で4つのクワドラント(E=従業員、S=自営業、B=ビジネスオーナー、I=投資家)に即して次のようにさらりと述べたことが、とても重要に感じる。
金持ち父さんも、オーナーシップと経営に対し、バフェットと同じような姿勢をとっていた。この二人が複数の方舟をうまくあやつることができたのはそのためだ。これはBとIのクワドラントから生まれる経営スタイルで、EやSのクワドラントの多くの人たちが頭に描く、経営のすべてに関与するハンズオン方式とは異なる。こんな話をするのは、「自分で投資する時間はない。ともかく忙しすぎるんだ」と言う人がたくさんいるからだ。EやSのクワドラントに属する多くの人は、方舟を造り、積荷を載せ、航海するために、自分より頭のいい人たちを探してやってきてもらうのでなく、すべて自分でやらなければならないと思っている。
EやSのクワドラントに属する多くの人には「労働」(Sに属する弁護士や開業医も同じ)の質が優先され、BとIのクワドラントの属する人には「資本」を扱う技術が優先されるのだ。これはどこまでいっても重ならない。投資期待は事業内容とは無関係にすすめなければならない。しかしそれゆえに「資本家」は社会のインフラをつくっていくことができる。銀行、学校、病院、工場、倉庫・・・。
資本家はいきなり大資本家にはなれない。まずは4つのレベルの投資を理解し小さな取引から始めること、その過程で学んでいくことが重要である。キャッシュフローを生む、安全なビジネスや不動産をしっかりと確保してから、株式の売買やオプション取引をするようにというのだ。このあたりいろいろポイント集(例えば不動産投資の6つのステップ)が多いものの、意外に具体的記述が少ないので、読者は、文中にさり気無く引用(宣伝)されている「教材」をインターネットで買えば、手っ取り早く身につくのではないかと焦るかもしれない
でも、資本家(株の売買益や配当を期待するような投資家ではない)の発想を持ち、不動産投資は事業(ビジネス)そのものだということを理解すれば、328ページに書いてある次のコメントに、方舟の何たるかを直感的に理解できるに違いない。
もしあなたがDC年金プランに不安を抱えていて、それでも不動産投資にあまり大金を投じたくないと思うなら、家を4軒持つことを考えるといいかもしれない。1軒は自宅で、残りの3軒は株式市場が暴落した時の収入源だ。
有名な経済学者、ジョン・メイナード・ケインズはこう言っている。「市場というものは、あなたが流動性を保てる期間よりも長く不合理性を持続することがある」小規模の不動産なら、暴落した市場が回復するまでどれだけ時間がかかったとしても、常に流動性をあなたに与えてくれる。
そう、「市場」や「年金」つまり「制度」は信用できないが、「不動産」や「ビジネス」つまり「経済」は信頼に足るのである。いや、奥が深いぞ。「金持ち父さん」!
