ライブラリーのあり方についての議論が高まっています

21世紀の図書館は何をしていくべきかについて、図書館界のオピニオンリーダーがディスカッションする機会が専門図書館協議会の主催により、六本木ライブラリーで開催されました。
どうして六本木ライブラリーには法人会員がないのだろう?」といった疑問への答えや、図書館とPublic/Information Commons (パブリック/インフォメーション・コモンズ)との関連が指摘されるなど、白熱した議論が繰り広げられました。
- 出席者:
- 金沢工業大学ライブラリーセンター館長 竺覚暁
浦安市立中央図書館館長 常世田良
アカデミーヒルズ六本木ライブラリーディレクター 小林麻実 - 司会:
- 専門図書館協議会機関誌編集委員長 越山素裕
司会:越山 今回のシンポジウムは、「図書館とマーケティング」をテーマに選びましたが、マーケティング自体はあくまで手段ですので、今後図書館は何をしていかなければいけないのか、このあたりにスポットをあてて議論していただきたいと思います。今日ご出席の皆様方は、大学図書館、公共図書館、民間のライブラリーのオピニオンリーダー的立場の方々だと考えておりますので、活発な議論が展開されることを期待しています。・・・
司会:越山 ・・・(略)小林さんのライブラリーは、日本にはまだ存在してない有料のビジネス支援図書館ではないかと私は考えております。基本的に有料であるということ自体が、ターゲットを絞れるというメリットがあると思うのです。その辺も含めて、ホームページで公開されているディレクターズノート等で書かれている、小林さんが考えられた理想のライブラリーに近いような形のものを実現されたと思うのですが、どうしてこのようなものを考えられたのか。多分、ご自身の考えや経験と世間一般のニーズ等がマッチしてこのライブラリーができあがったのではないでしょうか。
小林 はい、自分が一番欲しいものを作ったというところがあります。自分の欲しいものと皆さんのニーズとのタイミングがうまく合って、オープンから8か月もってきたのかな、と思っています。
私はこれまで、経営コンサルタントとして、情報をどうやって効率的に、早く手に入れるかということを考えてきました。そのときに、図書館というのは非常にいい可能性があるということに気づきました。実際にはコンサルタントの必要な情報を、すぐに図書館で手に入れることはなかなか難しいのですが、主題(テーマ)を分類すること、情報のプロがいて手伝ってくれること、それからいろんな情報にアクセスできるように、人が使いやすいように環境を整備しつつ、また人を教育していくようなことができる。そういうこと自体は非常にいいことです。 それなのに、仕事に必要な情報を得ようと思ったとき、町の図書館に行っていたのでは全然使いものになるものはない。ずっとアメリカで仕事をしてきましたけれども、アメリカでもやはりビジネスに使えるようなものというのは、ほとんど図書館にはない。でも、会社に属していれば、会社がいろいろ手助けをしてくれる。資料を用意してくれたり、先輩が自分の経験したプロジェクトの内容を次の若手に教えてくれたり・・・ということをしてくれる。
ところが、いったん会社を辞めてしまうと何も手に入らない。特に外資系企業で働いていると、どんどん人が解雇されてしまうのです。そうなると、今までは情報は会社の資料室や先輩の頭の中にあり、プロジェクトのアーカイブを活用できたのに、いきなり調べる手段が何もなくなってしまう。一人ぼっちで、この世の中で情報に何もアクセスできなくて生きていくのはやはり無理だろう、と考えるようになりました。
そういうときに、ライブラリーでは、例えば仲間が集まって、自分たちに必要な、生きていくための情報を手に入れられるようなことができるのではないか。それがただ単にお金を得るビジネスのための情報だけではなく、仲間作りという意味でも図書館というのは、すごくいい役割を果たしていけるのではないか。口をきくというような関係でなくても、ちょっと遠くに人がいるというような他人との距離感も面白いし、一人で資料を独占しないで、皆で分けあって読むこととか、過去に人間がやってきたことを次の世代に伝えていくこととかも素晴らしい。もうほんとに図書館っていうのは可能性がある。 毎日来てもいいし、いざとなったら職を失っても図書館だけはずっと通い続けることもできますし、自分のコミュニティ、「場」としてやっていくことができるだろうと考えました。日本中が多分、だんだんそのようなコミュニティというか、場であるとか、情報へのアクセスとか、そういうことを求めるようになってきたのではないかと思います。
自分の楽しみのための本は自分で買って一人で読めばいいんだけれども、そのほかに、「この本、おもしろかったね」とか、「この本、役に立つね」ということを人に伝えたい気持ちを持てる場所、人と交わる場が図書館であろうし、今みたいに一人だけで生きていくのが辛い時代だからこそ、かえってそういうものを求めている人たちがいるんじゃないかと思いました。 そんなふうに考えて、昨年4月からこの六本木ライブラリーを有料制でスタートしたのです。だからこのライブラリーは、組織に寄りかからないで生きる「個人」にフォーカスしていて、月額会費6万円であっても法人会員というのはないのです。
一般に図書館というのは、無料で本を貸してくれるところだと思われているわけなのですが、ここではお金を払っているのに本を貸してくれないという、普通の図書館とは全く逆のことをやっています。にもかかわらず、8か月で1,000人ぐらいの人が入会している。それはやはりある部分では、人々のニーズにマッチしているのだろうと思っています。もちろんこの場所がいいとか、タイミングがいいとかということはあると思います。たくさん本があるわけでもないし、リサーチができるわけでもないし、本を探すのだって難しい。しかも貸し出しはありませんよ。そうお話しても入会する人がたくさんいらっしゃいます。というのは、やはり何かこちらの言いたいことは伝わっていて、彼らのニーズとマッチしている部分があるのではないかというふうに考えています。
竺 そうですね、僕がここの図書館っておもしろいなと思ったのは、今まで日本人はパブリックライブラリーというと、貸し本屋の延長だと思っているわけですよね。ここはそうじゃなくて、本はもちろんあるのだけれども、それを読んで、その場を共有するという観念がおもしろいと思うのです。いわゆる、インフォメーションコモンズという言葉が最近、図書館界で言われています。コモン、つまり共通の広場ということですよね。そういうところに、本を読みに来ているのだけれども、そこでいろんな知の触れ合いが出てきて、ディスカッションが展開され、何か新しいクリエイティブなことが行われる場が都市の真ん中にあるということは、ちょっと今までなかったような、通常の図書館とは違った観念だなという感じが一つしてるんですけどね。
司会:越山 竺先生のライブラリーでもSL制度以外にもいろいろと工夫されていると思います。小林さんの場合は、ここに来られる方々に何をサービスするのかが課題ですよね。しかし、「本を読む方はあまりいらっしゃらないんですよ」というお話を聞いたことがあります。それでは図書館って、利用者の方々に何を提供するところなのでしょうか。単に利用者のニーズを満足させるだけの本揃えという形ではないような気がするのです。図書館ではユーザーが推薦した図書を全部買うのではないでしょう。ですから、情報に対するオピニオンリーダー的な位置づけの一つとして図書館があるのではないかと私は考えています。そのようなことについて皆様方の図書館ではどのようにされているのでしょうか。
竺 そうですね、・・・(略)だから、ある意味、図書館とユーザーとのキャッチボールを仕組むというのを、私は公共図書館も含めてあらゆる図書館でやったほうがいいと思うのです。そうしないと活性化はしてきません。それがさっき言ったインフォメーションコモンズの、そのコモンということの一つのグラウンドなんだという気がします。 今、六本木ライブラリーは会員制でこられていますけれど、会員の方々がいろいろなニーズを持っていらっしゃると思うんですね。そういうものをどうやって吸い上げていって、それに対して、どう…、まあ、こんな言い方不遜かもしれないけれど、お客様をどう教育するかって(笑)いうことが、やはり一つ大切なんじゃないかなあと思うんです。 特に、日本は日常生活の中で図書館を利用するというカルチャーができていないですからね。今こそ、それを作っていく時代だと思うんです。
小林 先生がおっしゃったように、何でもお客様の言うことを聞いているだけではないんだというところなんですよね。 たとえば、オフィスメンバーの方など、月に6万円も払っているんだから調べごとをやってほしい、自分の欲しい本を何でもとにかく買ってくれ、漫画でも買ってくれという声も確かにあります。お酒はこのブランドを入れてくれとか、ありとあらゆることを、お金を払ってるんだから聞いてくれという要望が出てくるわけです。でも、「ここはライブラリーという名前を持っている」という意識が私たちの中には強くあります。お酒を出すサロンではありません。
人との交流っていうのは私の強調しているところなんですが、だからといって、おしゃべりだけして帰ってもらえばいいという場所ではない。この場所でただ時間を過ごすのでは、全然違う世界になってしまう。だから、ライブラリーである以上、情報を得て、何か新しいものを作っていくんだという姿を見せてくれないと。ただおしゃべりして、寝転んで、帰る場所ではないんです。その辺の話を説明したときに、「じゃ、それならいいや」と辞めていく人がいたとしても、いいと思っているんです。実際にそれに近いようなこととかもあります。私たちのやりたいことを曲げずに、なおかつ賛同してくれる人をどうやって増やしていくか。そう言うと、非常に不遜な話ではあるとは思うんですが。 例えば、「うちのライブラリーではこの本をグレートブックスだと思います」と言っても、「いや、僕はそうは思わない」という人だっていっぱいいる。その中で、コモンっていう言葉がありましたが、皆の総意の方向として、どういうものが共通解となっていくのか。それはもう、毎日苦闘しているっていうところですね。
竺 一つ質問があります。ここへ来られる会員の方のニーズがちょっとつかみかねているところがあって、よくわかってないところがあるのです。例えば、ベンチャービジネス関係の方も多いと聞いたんですけれど、職場では大体、自分の個室なんか持っていられないと思うんですね。そういう方が都心で仕事をしておられて、自分の個室みたいなところでちょっとリサーチワークをやりたいとか。そういったニーズがあったときに、ここを利用されるのでしょうか。
小林 そういう方もいらっしゃいます。実際、先生がおっしゃったように、こちらにはITベンチャーの経営者の方もいればお医者さんもいらっしゃいます。あらゆる分野で全部こちらのライブラリーがレファレンスができるわけはないので、例えばリサーチ会社をご紹介するとか、ネットワークの一つを提供するということしかできないこともあり、それは非常に苦しいところです。
それ以外にできることは、やはりベーシックな部分で、「統計というものが本になっているんですよ、情報はインターネットだけにあるのではないんですよ」、とお知らせする、そんなお話が意外と役立つことがあります。お客様が考えられる以外に、全然違う情報の入手の仕方があるというとを、本だけではなく、あらゆるメディアで提示したい。例えばこういうメンバーがいて、こんなお仕事をなさっていますというお話をするとか。本に触れたいというよりも、やはり人とお話しをしたいというニーズがすごく強い。こちらのオフィスメンバーの方々にサーベイをしますと、ほかの人がどういう情報を得て、それを仕事にどう結び付けているのか、それらのやり方を知ることが、ここに来る大きな目的だという声は大きい。そのためには、個室ではなくて、オープンスペースでちょっと他の方々のお話を聞くとか。「常日ごろ接している人たちばかりでなく、人のやっている、それこそ知の凝縮みたいなものを垣間見ることができるのは、すごくいいボーナスなんだよ」というお話をしてくれる会員の方もいらっしゃいます。それで、まあちょっと、ライブラリー的にやってこられるのかな、っていう気がしますね。 ただ、これは難しいです。こういうコンセプトをずっと話していると、「そんなものいらない、とにかくお茶を出してくれればいいんだよ」っていう人もいるわけで
竺 うん。ところが私がおもしろいと思うのは、例えば、港区でも公共図書館がありますよね。一応蔵書もちゃんとしていて、だれでも利用できます。だけど、そういうところへ我々が行って利用しようとすると、どことなくやっぱり不満が残るわけです。いろいろ制限があるからでしょうか。ただで貸してもらえるのですが、公共図書館としての一つの制限もあるわけです。 公共図書館という機能はもちろんいるんだけれども、それを超えたサービスを欲しいといったときに、それは一体何なのかなという気がします。そのときにいろんな人が集まっていて、そこで情報を媒体としながら、コミュニケーションができるのではないかということですよね。それは非常に魅力的だと思うんです。アメリカにある、会員制のクラブみたいなものでしょうか。
小林 ええ、会員制クラブとか、サロンとか、それでいいじゃないですか、っていう話なんですよね。
竺 うん、そうですね、確かにクラブを見てきますと、新聞も置いてあるし、基本的には雑誌も置いてある。蔵書があって、レストランもある。そういうところですよね。でも、図書館って、そういうものともまたちょっと違うような気がするんですが。
小林 はい。それは私も感じています。もし、ただのサロンをこの場所でやるのであれば、月に6万円でも全然安すぎます。このライブラリーは、森ビルの文化事業部という部署がやっているんですけど、文化事業としてやるというのは、世の中のライブラリーが今までやってきたことを応用していけるはずだという私の思いを、仲間がわかってくれているということです。例えば、ライブラリーのパンフレットにしても、それからほかのところに出したりするようなものでも、その辺を伝えようとしてくれている。それは仲間に恵まれているということもありますし、この部署が、そういうことをやろうとしている意思があるからです。
例えば、私たちは、書籍情報を求められた場合、国立国会図書館と、それから町の本屋さんと、そのどちらのデータベースにもあたります。それは本というわかりやすいメタファーを使って、情報を、今までなかったような形でアクセスすることを提供するということです。そういうことに対して、価値を見出してくれませんかと訴えているわけです。 図書館だけではなく、企業の美術館や博物館、それから町の研究家といわれる趣味人。いろんな人がいるのに、日本の図書館は館種(図書館の種類)をすごく気にしていて、違うと全然交流もない。それこそインターネットに表されるように情報には枠がなくなっている世界なのに・・・ 今一番欲しい情報は本に載っていることもあれば、インターネットかもしれないし、雑誌かもしれない。大学図書館にあるのか、本屋さんにあるのか、そのようなメディアや場所に拘らないことを示していきたいと思うのです… (この全文は、『専門図書館』No.203誌上シンポジウム「図書館とマーケティング」に掲載されています。なお、web掲載にあたっては同協議会(機関誌編集委員会)の許諾を得て必要最低限の修正を加えました)