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■収益還元法の意味と活用法 不動産投資の基礎理論 広門 進 朝日監査法人ファイナンシャルサービスグループマネジャー |
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不動産投資を判断する基礎は収益還元法だが、十分に活用されているとは言えない側面もある。しかし、その数式に習熟し、意味するところが十分に理解できれば、的確な判断ができ、新たな事業化への道を見出す可能性が生まれると、広門氏は力説する。習熟するためには、「パソコン・ソフトなどに頼らず、電卓で手計算を繰り返し試みること」と同氏は指摘した。
●割り引く金利には注意を 不動産投資を判断する基本は、収益還元法(DCF=Discounted Cash Flow)である。DCFの数式の意味をしっかりと理解できれば、応用が可能になる。 DCFの数式にあるC1が100円だとして、現在持っている100円と1年後の100円がどれくらい価値が違うのかを比較するには、C1の割引現在価値、NPV(Net Present Value)を求めなければならない。実際にはC1を1年目分の金利で割り戻し、同様にC2のNPVを求めるには2年目分の金利で割り戻す。 ただし、2年目の金利は1年目の金利とは必ずしも同じではない。2年目の金利は、たとえば2年で償還になる国債の金利をベースにしなければ、本当にC2のNPVを求めたことにならない。NPVの基本的な考え方は、一定の金利で割り引くというのではない。各年分のキャッシュを割り戻すということだから、それに対応した金利を使うのが本来の考え方である。 ●DCF式の2つの側面 NPVのベースにある考え方は、将来の別の時点に同じ金額のキャッシュフローがあるとしても、現在時点から見たその価値は時点によって異なるということである。現在の2万円と10年後の10万円では、価値が逆かもしれない。大事なのは「今に引き戻せばどうなのか」ということだ。それを判断するときに使うのがNPVなのである。 実際にあったNPVの簡単な利用例を示してみたい。数年前に、あるディベロッパーが分譲したマンションの例だが、26戸売れ残っている。現在も販売活動は続けていて昨年は坪単価150万円で2戸売れた。ところが、ある投資家から、坪単価100万円ならば26戸一括して購入したいというオファーがあった。そこで、売却すべきか販売を続けるべきかを意思決定するためにNPVの考え方を応用したものである。 販売を継続した場合、いままでと同様に毎年2戸は売れるとすれば、13年目に販売が完了する。ただし、年を追うごとに価格を下げざるを得ず、その下落率を年2%と仮定した。また、売れ残った住戸についての管理費、固定資産税、都市計画税等は、ディベロッパー(現在のオーナー)が負担しなければならない。 こうした条件でキャッシュフローをみると、ネットで毎年1億円強の現金収入があり、13年間での単純な収入合計は15億円弱になる。しかし、年利6%で割り引き、年ごとのNPVを求めて合計すると10億円少々にしかならない。一方、坪100万円で投資家に一括売却すれば、現時点で14億円弱の代金を手にすることができる。 単純な合計金額だけを見ると、時間をかけて売ったほうがよいように思えるが、このようにNPVで考えると、一括売却すべきであるという結論に達する。 販売を続けていくと毎年1億円程度のキャッシュフローがあるが、今年の1億円と13年後の1億円では、金利で割り引かれるために価値がまったく異なる。毎年のキャッシュフローを単純合計して15億円近い数字が出たとしても、その数字には意味がない。比較すべき数字は一括売却代金の約14億円とNPVの約10億円であり、それを意思決定の基礎としなければならない。 DCF式を表から見た手法がNPVだとすると、IRR(内部利益率)は裏から見た手法と言えるかもしれない。まずNPVは先に述べたとおり、将来のキャッシュフローをそれぞれの時点に応じた、異なった金利で割り引いた現在価値を足し合わせることで求められる。そのNPVをDCF式の左辺に置いて、今度は、将来のキャッシュフローを同じ金利で割り引いて、等式が成り立つような金利を求める。これがIRRというもので、キャッシュフローのタイミングを考慮に入れた収益性を示す指標である。次の簡単な例で考えてみよう。 AとBの2つの不動産投資のプロジェクトがあり、どちらも5年間の投資で50億円の初期投資を必要とする。Aの純利益は毎年10億円で、5年後に投資した50億円が全額戻る。一方、Bは毎年20億円の純利益を上げるが、5年後の元本回収はゼロだとする。 A、Bとも、キャッシュフローを単純合計すると100億円を回収できるのだが、回収が早いBが優良な投資であることは明白だ。しかし、企業に2つの投資方法を選択させると、Aを選ぶことが多い。その理由は、元本割れを嫌うからだ。IRRを利用すれば、このような誤りを避けることができる。タイミングを無視して、単純な集計をすると、プロジェクトAもBも同じということになるが、IRRを計算すると、Bのほうがはるかに高い。IRRはタイミングを考慮した指標であるということだ。 ●DCFで探す事業化の可能性 以上のようなDCFの考え方を使って、身近にある不動産プロジェクトを見直してみると新しい可能性を発見できることがある。分譲マンションの証券化もその一例だ。 100億円の売り上げを見込めるマンション分譲事業があると仮定する。そこから土地取得費、建築費、販売経費、金利など合計91億円を差し引いて、9億円の利益が見込めるとする。マンションディベロッパーの用語でいう利益率9%のプロジェクトということになる。マンション事業としては、標準的な利益率である。ただし土地の取得から建築して資金を回収するまで約2年間かかる。 この数字だけからこのプロジェクトの金融商品化を考えると、「2年間で9%、つまり1年で4.5%の利回りでは事業化できない」となる。資金を調達するのに3%ぐらいの金利がかかるので、4.5%の利回りでは投資物件として魅力がないというわけだ。 ところが、プロジェクトの進行に沿って支出を細かく見てみると、最初に一気に金が出ていくのではないことが分かる。最初に出ていくのは土地の取得費ぐらいであり、建築費は最後。販売経費も中頃から終わりにかけて出ていく。逆に売り上げは、すべてが最後に入るのではなく、途中でも手付金が入ってくる。 いつ金が出ていき、いつ金が入ってくるのかを考えたのが、本当の利回りである。計算し直すと、IRR(タイミングを考慮した利回り)が10%を超え、「それなら事業化できるかもしれない」となった。 一般に開発型の不動産の証券化は非常に難しいと言われてきた。やるのなら、オフィスビルなど利回りの高いものでなければ事業化できないと言われてきた。ところがそれだと開発期間は長いし、リスクも高くなる。しかし、DCFの考え方の基礎に立ち返り、数式を使って細かく計算してみると、新しい可能性が見えてくることがあるという例である。 ●影響が小さい20年後の元本回収 次に最近話題のPFIの事例で、公営住宅を対象として、ある自治体に提案した例を紹介しよう。自治体が古い社宅を持っていて、建て替えたいが資金がないというケースである。 まず自治体に土地を更地にしてもらい、それを運営(保有)会社が非常に安い地代か無償で借りる。そこに運営会社が投資家から集めた資金で公営住宅を建設し、自治体に一括借り上げしてもらう。20年か30年か、一定期間が過ぎたら自治体に建物ごと寄付するというスキームである。 この事業について、最終的に建物を寄付して運営会社の収支が成り立つのかと疑問視する声もあった。それについてもDCFの式を理解していれば、納得できるだろう。 事業が終わる20年後にいくら回収できるかは、NPVにほとんど影響しない。DCF式を見ると明らかなとおり、遠い将来のキャッシュフローは、大きな数字で割り引かれることになるからである。むしろ、「最後は寄付します」と言ったほうが自治体とは話がしやすい。 さらに、最終的に物件価値がゼロになることが分かっていると、投資を評価するのも楽になる。ひょっとしたら10億円の価値になるかもしれないし、もしかしたら1,000万円になるかもしれないと考えながら投資を評価し、利回りを考えると、リスクが大きく見えてしまう。「どんなことがあっても20年後にはゼロ」ということが分かっていれば、逆にリスクは小さく見えてくるものだ。 ●DCF活用のセンスを磨く このように、DCFを活用するポイントは、キャッシュの流れをたんねんに追うことである。金がいつ入り、いつ出ていくのか、どれくらいの確度で入るのかなど、たんねんに追い、紙に落としてみる。特に「いつ」ということが大きな問題だ。そこを見誤ると、事業化できるものもできなくなる。 何よりもDCFの数式に慣れることが大事だ。そのためには、ときにはパソコンに頼らず、手や電卓で計算してみることが重要である。そうすることで、DCFの式の性格がよく見えてくる。どこをどう変えてみたらインパクトのある数字になるかなどが見えてきて、センスが身に付く。 そのうえで不動産のプロジェクトをたんねんに洗い直してみると、証券化できそうな不動産事業と、できそうもない不動産事業をかぎ分ける勘のようなものができてくるだろう。 第7回不動産証券化コース
テーマ/「不動産投資の基礎理論」 |
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