■不動産証券化商品の格付け
格付けが評価するものと具体的手法

三國 仁司 株式会社日本格付研究所
格付企画部ABS室長・主席審査役



現在の日本経済の種々な局面で登場する「格付け」は、不動産を証券化するにあたっても欠かせないものとなった。そこでの格付けとは、不動産そのものに対する評価ではなく、あくまで証券に対する評価であり、利払いおよび元本償還の確実性に対する評価である。不動産証券化において果たしている格付けの役割および具体的な手法を、格付けの第一線で活躍されている三國氏が詳細にわたって解説した。

●キャッシュフローで評価
オフィスビルを証券化する場合、キャッシュフローが元本償還と利払いの原資である。たとえば年間8億円のキャッシュインが見込めるオフィスビルで、100億円の資金をつくり出そうとしたとする。このうち50億円が株式であり、50億円がローンだったとする。現在の金利は2%程度だから、50億円のローンに対して利子は1億円。全体のキャッシュインが8億だから、50億円の株式に対して7億円の配当が見込め、利回りは約14%になる。
このような形において、50億円のローンの利払いおよび元本償還の確実性を評価するのが、われわれ格付機関の仕事だ。決して株式の評価をしているわけではない。この例では、8億円のキャッシュインに対して1億円の利払いであるから、これは確実性が高いと評価する。
不動産証券化において、不動産のグレードやクオリティが高くなければいけないといわれるが、それは逆に考えて欲しい。格付けの考え方では、あくまで安定したキャッシュフローが長期に望める物件が“いい物件”なのであり、そうした観点で不動産を見ていったら、グレードが高く、クオリティーも高い物件だった、というのが筋道だ。
キャッシュフローが評価の前提であるから、格付けの対象となるのはオフィスビルなど収益を目的とした物件である。原則として居住用の住宅は対象としない。


●将来の売却価格も評価
例示したビルにおいて、利払いは確実としても、ローンの元本の50億円を返せるかどうかという問題が残る。不動産の証券化では、5年後程度に不動産をいったん売却し、その代金で元本を返済する方法がとられる。そうなると、ビルが売れるか売れないかが、元本返済の確実性を評価するうえで重要なポイントになる。
格付けでは、このビルの売却価格でローンの元本である50億円の返済を賄いきれるかどうかを評価するが、最も重要なのは「いくらで売却できるか」という「将来の価値」を評価する点である。
売却代金によって確実に元本を返済できるならトリプルAに格付けされる。幾分かでも不足する可能性があると、ダブルBぐらいになる。トリプルAは、1万分の1も間違いが起こらないという可能性を表す。1,000分の1ならダブルAぐらいだろうし、トリプルBでも5年の累積で2%程度の確率だろう。それぐらい格付けは安全性に対してシビアである。
ただし、希望どおりには売却できないことも多い。
そうした懸念も格付機関は考慮し、売却の準備期間と売却の目標金額を設定する。5年後の売却予定であれば、3〜4年の段階で売却手続きに入ってもらい、売れる可能性を見たうえで格付けする。その段階で買い手がつかずに売却期限が迫ってくれば、売値を下げざるを得ず、ローンの元本を返せなくなる可能性も出てくる。もし売却の目標金額を達成できないようであれば、格付機関は投資家や市場に警告を出し、格付けを下げる。


●安定性の高い債権を格付け
不動産の証券化を考えるとき、まず不動産はリスキーであるか否かから考えねばならない。
株式は価値がゼロになることもあるが、不動産投資は背後に不動産という現物がある。その分、安全な投資だとも言える。さらに、不動産の価格が将来上がりそうであれば、売却せずに持っていることもできる。
全体としてそこそこの利回りがあるものを格付けする場合、最初に償還を受けられる部分と、償還が後回しにされる部分とに分ける。当然上澄みは安全だが、底溜まりのほうは損をする可能性が高い。
それならば全体で持っていたほうがいい、という考え方が生まれる。これが不動産特定共同事業的な考え方である。米国のREITもそれに近い考え方だ。
投資全体を上澄みの社債と、底溜まりの株式に分けてみよう。社債は一定の利回りが約束されており、守られなければ債務不履行となるのだから、安全性は高い。
一方、株式は、社債という借金を返済しなければ配当を受け取れないのであるから、安全性の低いリスクマネーであるから格付けはできない。他に匿名組合における出資や信託受益権も格付けの対象になりづらい。ただし、信託受益権は、場合によっては、格付けができる。その利回りはあくまで予定利回りであるが、現状では確定利回りに近いと投資家が理解しているからだ。
株式は格付けの対象にならないが、投資対象にはなり得る。リスクに見合う利回りを得ることができるからだ。利回りのベースとなるのは10年国債だが、これに利ざや(SPREAD)がプラスされ、格付けが低くなればなるほど、つまりリスクが大きくなればなるほど利ざや部分が加速度的に高くなる。
トリプルBであれば、利ざやは2〜2.5%程度。もっとリスクが高ければ10%になることもある。


●物件の良否がリスクを左右
株式のリスクは不動産物件の良否によって大きな差がある。良い物件の第一条件は、先に挙げたように安定したキャッシュフローを確実に生んでくれることである。そこではリスクの分散がどのように行われているかが重要なポイントになる。
地震などの災害によって物件がキャッシュフローを生めなくなる可能性を考えると、物件は1つより複数であるほうがいい。1つのビルが完全に使えなくなっても、他のビルが使えるのでキャッシュフローは安定するからだ。さらに地域的に分散していたほうが安全性が高まり、格付けも上がる。
テナントについては、それぞれの質も大切だが、複数であり、かつ業種や規模が多様であることが望ましい。また、1社のテナントからの賃貸収入を全体の5%以内に抑えることもリスクを最小限にとどめ、キャッシュフローを安定させるうえで非常に重要である。
われわれ格付機関はそうした細かい点まで注意しながら、キャッシュフローの安定度を評価している。


●証券化は高利回りを生む手段 例に挙げた100億円の物件について、メリットもデメリットも引き受けるつもりで50億円を借金し、残りの50億円を自己資金で株式にしてそのまま持つ人がいたとする。
こういう人は、不動産の価格が、たとえば10億円下がったとしても問題としない。株式の簿価も10億円下がるが、それでも良しとするなら、物件そのものを持っているより、少ない投資金額で大きな利回りを得られるというメリットが生まれる。
不動産の証券化は、不動産の流動性を高め、取引を活発にさせる目的もある。しかし、この例で示したように、安定性の高い上澄みを人様にあげたとしても、もともと引き受けてもいいと考えているリスクを引き受けることで、高い利回りの債権を安く手に入れる方法でもあるのだ。




第6回不動産証券化コース

テーマ/「不動産証券化の格付け」
ゲスト/三國 仁司
  (株式会社日本格付研究所 格付企画部ABS室長・主席審査役)
コース指導/佐藤 一雄(株式会社サタスインテグレイト代表取締役社長)
日時/1999年6月29日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)


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