■SPCで商業施設を証券化
不動産証券化商品の具体例(その2)

大川 陸治 東急不動産株式会社 資産活用事業部常務取締役本部長


 今回は東急不動産がSPC法を活用して証券化した千葉県佐倉市の染井野ショッピングセンターを題材に、商業用施設の証券化について問題点や可能性を探った。同物件は賃貸物件および商業施設の両面において高いポテンシャルを備えているにもかかわらず、その証券化商品を購入するか否かについてのグループディスカッションでは、東急不動産の信用格付けに判断の基準を求める意見が続出した。不動産証券化の課題の一端が露呈した形となった。

●トリプルAの挌付けを取得
「染井野ショッピングセンター」は、千葉県佐倉市染井野で開発が進められている「東急みずきが丘」内にある。同分譲地は総開発面積約110ha、総計画戸数2,309戸。東急不動産の開発分は約55ha、1,250戸である。
ショッピングセンターの用地は約5,300坪。地上5階建ての建物は延べ約1万2,000坪。1、2階が店舗、3〜5階が駐車場。テナントはイトーヨーカ堂である。誰でもが商業施設をつくれるという場所ではなく、周辺に競合施設ができる可能性は極めて低い。
集客力のある商業施設であり、長期の安定した賃貸収入が約束された不動産物件である。不動産としては初めてトリプルAの格付けも取得できた。


●直接金融への移行は時流
証券化の第一の目的は、含み益の実現である。
確実に倒産隔離した場合は、物件の収益力だけに依存した資金調達が可能になる。銀行が貸し渋るなかで、証券化により資金調達をしなければならないという背景もあった。所有と運営の分離による有利子負債の削減、あるいは間接金融から直接金融への移行という業界の大きな流れのなかでの証券化であったと言える。
SPCを活用して信託受益権を売買したことも特徴である。
信託の場合の登録税は0.6%であり、国内SPCに売却する場合の2.5%と大きな差がある。現物の不動産を国内SPCに売却するよりも信託銀行に信託して信託受益権を売買したほうが、信託報酬を加えても全体の経費は低いと判断した。
証券発行のために証券会社や銀行に入ってもらわなければならないが、機関投資家とのパイプ役としての役割も大きいだろう。


●90%ルール適用条件の課題
優先出資分であるエクイティをすべて当社が所有したのも、今回の証券化の特徴だろう。
配当はゼロだが、元本を償還した際の余剰分を当社が得る形をとった。これは90%ルールが適用されないための特殊なルールだ。
90%ルール(課税対象収益の90%超を出資金の配当として支払った場合は損金とする)が適用されるには次の4つの条件のうちのいずれかを満たせばよい。

1.特定社債券の発行額が公募で1億円以上
2.特定社債券が適格機関投資家のみによる引き受けであること
3.優先出資証券を50人以上で引き受けること
4.あるいは適格機関投資家のみによる引き受けであること

SPC法は銀行の不良債権を処理するために生まれた。そのためオリジネーターが銀行であることを想定している。銀行は機関投資家だから、優先出資証券をオリジネーターが引き受ければ自動的に90%ルールが適用される。
しかし優先出資分は本来、ハイリスク・ハイリターンであるために、今回のような証券化の場合では機関投資家が引き受け手になろうとしない。結果的にオリジネーターが引き受けざるを得ず、90%ルールが適用されない。
今後、不良債権の処理ではなく、今回のような収益物件を証券化していくには、制度を見直す必要がある。


●万全を尽くした倒産隔離
5年後に元本を償還する予定だが、不動産の処分については、処分信託を受託している三井信託銀行が公募売却を行う。三井信託銀行はプットオプション(売渡し選択権)を取得していて、もし公募売却ができなかった場合は、第1段階として東急不動産に売渡し選択権を行使する。万が一、東急不動産が倒産しているような場合には三菱商事に売渡し請求権を行使する。
倒産隔離については現状では万全を尽くした。その方法としては、東急不動産がケイマンSPCに300万円を出資しながら議決権を放棄したことがポイントである。一方、ケイマンSPCは議決権を持って国内SPCに出資している。東急不動産は国内SPCに優先出資しているが、ここでも議決権を制限し、破産の申し立てを一切しないという誓約書を入れるなど、非常に複雑で手間のかかる形で倒産隔離を行った。
せっかくSPC法を導入するのであれば、国内SPCの段階で倒産隔離できるようにして欲しいものだ。(以上、大川陸治氏)


●グループ討議
大川氏の商品説明を受けて、受講者は「同商品を購入するグループ」と「購入しないグループ」に分かれて討議し、それぞれ理由を発表した。(編集部注)

・購入グループの理由
イトーヨーカ堂からの安定した賃料収入があり、年間のキャッシュフローやクーポンの支払いには懸念がない。
強いて懸念材料を挙げれば、5年後の償還時期のオリジネーターの経営状態だ。現状の格付けでは、倒産リスクを考えなければならない。ただし土地のポテンシャルは高いと思う。プットオプションの格付け金額を下回ることはないだろう。


・非購入グループの理由
5年後の元本償還の確実性が大きな懸念材料だ。プットオプションに東急不動産が応じられれば問題はないが、倒産の懸念は拭えない。
ビルと違って汎用性に欠ける商業施設の証券化は難しいのではないだろうか。


●まとめ
受講者の意見が発表された後、講義のまとめを兼ねて大川氏は次のように述べた。(編集部注)

倒産隔離に万全を尽くしたプロジェクト・ファイナンスにより、物件だけで判断できる材料を提供したつもりだが、最終的にプットオプションが判断上の問題になるのは残念だ。
こうした商業施設の証券化では、テナント自体の経営状態をはじめ、流通革命、外資の参入、大店法など、種々な要因をきちんと説明できなければならないだろう。そのうえで判断していただかないと、プットオプションを引き受ける企業の格付けだけで決まってしまう。投資家が自己責任で判断できる材料を、オリジネーターや投資顧問会社が提供する必要がある。




第5回不動産証券化コース

テーマ/「不動産証券化商品の具体例(その2)」
ゲスト/大川 陸治
(東急不動産株式会社資産活用事業本部常務取締役本部長)
コース指導/佐藤 一雄(株式会社サタスインテグレイト代表取締役社長)
日時/1999年6月15日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)


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