■不動産価格
 -このとらえようのないもの

多様な要素が
絡み合って生まれる市場価格


佐藤 一雄 株式会社サタスインテグレイト代表取締役社長
海本 丈夫 株式会社スペースリサーチサービス 代表取締役/
不動産鑑定士評価システム協同組合理事/不動産鑑定士



佐藤 一雄
講義一覧▼


 不動産の証券化を進めるうえで、合理的な不動産価格の評価は不可欠である。政府が発表する地価公示は、不動産取引価格の指標とされているが、その数値には倫理的・統制的に地価を誘導しようとする政府の意図が感じられ、必ずしも合理的な評価とは言いにくい。不動産証券化との関連のなかで、不動産価格の特性をはじめ、現状の不動産評価方法の問題点と今後の課題など、広範な問題を佐藤、海本両氏に解説していただいた。

佐藤一雄氏
●不動産価格は「一物多価」
国や地方公共団体が定める公的な土地評価は一本化されていない。公示地価、基準地価格、相続税評価額(路線価)、固定資産税評価額の4つがあり、「一物四価」と言われてきた。
政府は「一物一価」を唱え、路線価を地価公示の80%に定めるなど、公的土地評価の一元化を目指しているが、疑問は多い。なぜなら不動産は「一物多価」が本来の姿だからだ。
不動産価格を決定する要素は、「取引の対象となる不動産の形態」、「取引の目的」、「取引の主体」の3つがある。この3つが絡み合いつつ市場での取引価格が決まる。
また、供給する側はコストから価格を考え、一方で投資する側は収益性から価格を考える。さらに支払能力から価格を考えることもあるだろう。
供給する側のコストと投資する側の収益性が一致するところがマーケットの取引価格となるが、多様な要素が絡みあって決まる不動産価格は、1つの土地であっても取引の当事者や取引目的の違いによって大きく変わる。すべてのケースで同一の価格になることなどはあり得ない。


●操作意図がうかがえる地価公示
不動産取引価格の指標とされる政府の地価公示にも問題は多い。
第一の問題点は、地価公示標準地(公示地)が煩雑に移動していることである。定点観測なら意味もあるが、観測地点が移動したのでは意味をなさない。そこには地価を操作しようとする意図が感じられる。
また、公示地は標準的な宅地に統一されているわけでなく、商業地なども含まれているうえに、土地の規模もバラバラである。土地は用途や広さによって価格の変動率が大きく異なるものである。そのような条件が違う土地を比較して、価格の上昇下降を論議しても意味はない。


●建物と土地の価格は不可分
不動産価格は土地価格と建物価格で構成されているが、この2つを単純に分離することはできない。
たとえば、非常に質の良い建物が立っていることによって評価を高めている土地もある。そうした土地の価格を建物抜きで考えることは難しい。
不動産価格と税の関係でも問題は多い。
課税のベースとなる相続税評価額・固定資産税評価額が取引事例価格とリンクしているのも疑問だ。取引価格が高騰すると税金も高くなるが、そこに住み続けている人にとっては、周辺での取引価格の高騰は何のメリットももたらさない。取る側の論理だけで不動産に関する税金が決められていることは大いに問題だ。


●「地価続落論」は大いに疑問
このところ地価は低迷を続けているが、「2008年には半値になる」と予想する人さえいる。その論拠のひとつが国際的な地価との比較だ。日本の地価比率(名目GDPに対する土地資産額の割合)が現在は約3倍であり、米国の1倍に比べると高すぎるから、まだ下がるという論理だ。
しかし、米国の地価比率と比較して意味があるのかは大いに疑問だ。ましてや地価比率を算定するベースとなる土地資産額すらあいまいな数字だ。
いったい日本全体の地価をどうしたら正確に算出できるのだろうか。


海本丈夫氏
●問題点の多い不動産市場
日本では「不動産価格」という言葉の使い方が非常にあいまいだが、欧米では、Price(取引の対価という事実)とValue(評価主体の判断・意見)に明確に分離されている。
Priceを決定する日本の不動産市場には実に問題点が多い。不完全で遅い情報、流動性の低さ、高い取引コスト、広い外部効果などが問題点として挙げられる。
組織された市場がないことも重要である。不動産が定型化しにくい商品であることにも起因しているが、市場は用途別・取引主体別の複数の独立部分市場で構成されている。
また、それらの市場でのPriceは、売り手・買い手間の話し合いで決まる相対取引でのPriceであり、合理性に欠けている。


●鑑定評価の原点は損失補償
わが国の不動産鑑定評価制度は、公共用地の取得に伴う損失補償を適正かつ円滑に行うために創設された。そうした歴史的事情を反映して、評価のマニュアルとも言うべき「不動産鑑定評価基準」は、倫理的・統制的な色彩が濃く、価格を安定的に誘導しようという意図が強い。
現行の「不動産鑑定評価基準」は、次のような分析を欠いている。

1.具体的な市場の分析(需給の分析)
2.取引主体の分析
3.資本調達面の分析
4.投資不確実性(リスク)の分析

証券化に伴う不動産市場の変化に対応するために、従来の問題点をクリアできる評価手法が新たに開発されなければならない。
投資や投機は反社会的な行為とする倫理的な価値観から脱却し、ニュートラルでクールな観察と判断は是非とも必要だ。
分析そのものは動態的(時系列的)でなければならない。地域的な供給量、投資家の購買力水準と総量、競合商品の市場滞留期間などを分析できるようにしなければならない。
このほか、取引主体の類型別分析、資本調達面の分析、リスクマネジメントも必要だ。
こうした評価は、投資分析の範疇に含まれるものであり、現行の「不動産鑑定評価基準」の枠を超えるものである。


●投資分析に踏み込む鑑定評価
伝統的な市場価値(Market Value)は、一般社会における客観的・普遍的(非属人的)な評価であった。それに対して、DCF法(Discounted Cash Flow Technique)などを使用した投資分析は、特定の投資家のために投資価値(Investment Value)を求めるものである。
それは主体に関連した主観的で属人的な評価であるとともに、これまでの鑑定評価が行ってきたような最終的に一義的な評価額を決定するものではない。たとえばリスク分析の一手法である感度分析において、金利や期待利益率、稼働率、人件費、公租公課などの変動がIRRにおよぼす影響のシミュレーションである。
投資家はシミュレーションの結果に経営戦略を加味して、投資の意思決定を行うのであり、投資分析は意思決定の直接的な判断基準となる。
DCF法の使用は、不動産鑑定士の専業分野ではなく、適用能力をもつ人であれば誰でもが評価に参加できる。逆に、この手法を利用できない不動産鑑定士は不動産証券化に関しての活動分野が狭められることになる。

第3回不動産証券化コース

テーマ/「不動産価格-このとらえようのないもの」
ゲスト/海本 丈夫 (株式会社スペースリサーチサービス 代表取締役/
   不動産鑑定士評価システム協同組合理事/不動産鑑定士
コース指導/佐藤 一雄(株式会社サタスインテグレイト代表取締役社長)
日時/1999年5月18日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)


佐藤 一雄 講義目録
■第23期 '99.4.27
いまなぜ証券化なのか
■第23期 '99.5.11
 不動産証券化とはなにか
■第23期 '99.5.18
 不動産価格-このとらえようのないもの
■第23期 '99.6.1
 動き始めた一般投資家向け商品
■第23期 '99.8.31
 規制緩和と環境整備が不可欠
■第21期 '98.11.10
 いまなぜ証券化なのか
■第21期 '98.11.24
 不動産特定共同事業法の活用と課題
■第21期 '99.2.9
 不動産投資インデックス

academyhills.com