■今、なぜ証券化なのか
経済構造の変化に対応する可能性を探る

佐藤 一雄 株式会社サタスインテグレイト代表取締役社長 


佐藤 一雄
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不動産証券化コースの第1回目として、不動産証券化が求められている基本的な背景を、初期から制度化に取り組んできた佐藤 一雄氏に解説していただいた。佐藤氏は、バブル以後の日本経済が成熟化経済へと構造変化していることが最も大きな要因であるとし、貯蓄大国から資産運用立国への転換や不動産業における地価依存型経営の脱却が急務であり、それを実現する手段のひとつとして不動産証券化がある、と力説した。
●成熟化経済への変化構造
不動産証券化の講座を始めるにあたって、証券化が求められる背景を解説しておきたい。背景としては、次の5点を挙げることができる。
 
1. 日本経済の“成熟化経済”への構造変化
2. 銀行による“間接金融中心”の経済システムの機能マヒ
3. 国民の金融資産の増加に伴う“貯蓄大国から資産運用立国”への転換の必要性
4.国民の金融資産の増加と貯蓄大国から資産運用立国への転換
5.不動産業経営における“地価依存型経営”からの脱却の必要性
この中で最もベーシックな問題は、経済構造の変化だ。現在の日本は、成長経済から成熟化経済に移行し、鎖国的経済から金融開国へと向かっている。政府は明治時代から今日まで、国民に対して勤勉に働き倹約して貯蓄することを奨励してきた。貯蓄により集めた資金は、政府が再分配するという、いわば社会主義的資金配分型経済であった。それに対して、これからは資本主義的資産運用型経済になる。
また、国民や企業などのリスク意識も薄かったが、これからは隠れていたリスクが噴出する時代であり、そのリスクに対応する意識、システムが求められている。

●産業構造変化が地価に影響
地価も経済構造の変化と切り離すことができない。これまでの地価上昇率は「経済成長率の約2倍」といわれてきた。成熟期に入った現在の潜在経済成長率は約2%であるから、地価はその倍の4%程度の成長が見込めるかというと、そうはいかない。なぜなら、産業構造の中心が第三次産業へと変化しているからだ。
部門別就業者数や産業別国内総生産の構成比などを見ると、サービス業を中心とした第三次産業は年々拡大を続け、将来的にはさらに拡大するものと予測されている。

●望まれる新しい資金の流れ
2番目の背景は、銀行による間接金融中心の経済システムの機能がマヒしていることだ。
銀行の貸し渋りや資金回収により資金の流れが停滞するなかで、新しい資金の流れが求められているが、その手段のひとつが不動産の証券化である。
これまでの銀行中心の金融システムでは、融資に伴うリスクを銀行が負ってきたが、これからはそのリスクを負い切れなくなり、資金の流れが滞ってしまっている。これからの資金の流れとしては、ファンドを通じて個人が資本市場に投資したり、新金融仲介機関が企業に代わって資本市場の資金を直接調達するという新しい流れが生まれつつある。その資本市場を構成する金融商品のひとつとして、従来からの株式・社債・CPなどに加わるのが不動産証券化商品である。
ただし、不動産証券化は現在、不良債権処理の道具として考えられているが、証券化の中でもその難しさは大学クラスだ。まず、小中学校クラスにあたる優良な不動産の証券化が行われ、市場が形成されなければならない。その市場の中に、ハイリスク・ハイリターン型の商品として、不良債権処理に伴う不動産証券化商品が入ってくるのが正常な形だ。


●経済の“三種の神器”が破綻
3番目の背景として挙げられるのが、企業経営における日本型経済システムの破綻だ。
「三種の神器」といわれてきた「株式持ち合い」、「土地本位制」、「メインバンク制」が崩壊してしまった。株式持ち合いによる相互依存態勢から自己責任原則へと変化し、利害関係者によるステークホルダー資本主義はROE重視のストックホルダー資本主義へと変わりつつある。
株式持ち合い制度はなくならないだろうが、弱い企業は群の中から除外されるといった変化は進むだろう。
これまでの企業経営は、価格変動や金利変動を含み益と地価上昇という神風で乗りきってきたために、リスクテイクの意識が薄かった。しかし今後は、含み益や地価上昇に頼らず、自分の力で乗りきらねばならない。利幅に見合ったリスクに抑え、確実な利益をとらねばならない。
資金調達も、銀行からの借り入れではなく、株式や社債などによる直接融資に移行しなければならない。その手段のひとつが不動産の証券化だ。


●増大する金融資産
背景の4番目は、国民金融資産の増加と資産運用ニーズの変化だ。
日本の個人金融資産は現在、1,200兆円に達し、2020年には2,500兆円になると予測されている。1,200兆円の運用利回りが1%上がると、消費税総額に匹敵する年間12兆円の利益が生まれる。
日本人は世界でも希に見る“預金好き”だが、銀行の金利が現状のようでは貯蓄から投資へ移行せざるを得ないだろう。そうした投資商品のひとつとして不動産証券化商品の必要性がある
ただし、現状では、株式などの投資に対して「自分で責任を持てといっても困る」という人がかなりいる。自己責任の受け止め方がベーシックな部分で整理されることが、証券化するうえでの問題となるだろう。


●不動産業の生き残りの条件
最後の背景は、不動産業が地価依存型経営から脱皮し、生き残るために、不動産の証券化を利用することだ。
常に地価が右肩上がりのときは、土地を単に持ち続ければ儲かった。しかし土地保有プレミアムが期待できない状況では、キャピタルゲイン中心からインカムゲイン中心の経営に移行せざるを得ない。
また、かつては所有と経営が一体であって、素人経営でも利益が上がったが、今後は所有と経営が分離し、プロによる専門高度な経営でなければ、利益を得られない時代に入る。こうした大きな不動産業の経営の変化に対応するのが、不動産の証券化である。




第1回不動産証券化コース

テーマ/「今、なぜ証券化なのか」
コース指導/佐藤 一雄(株式会社サタスインテグレイト代表取締役社長)
日時/1999年4月27日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)


佐藤 一雄 講義目録
■第23期 '99.4.27
いまなぜ証券化なのか
■第23期 '99.5.11
 不動産証券化とはなにか
■第23期 '99.5.18
 不動産価格-このとらえようのないもの
■第23期 '99.6.1
 動き始めた一般投資家向け商品
■第23期 '99.8.31
 規制緩和と環境整備が不可欠
■第21期 '98.11.10
 いまなぜ証券化なのか
■第21期 '98.11.24
 不動産特定共同事業法の活用と課題
■第21期 '99.2.9
 不動産投資インデックス

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