■不動産の評価と今後の課題
研究課題について

室津 欣哉 森ビル株式会社不動産鑑定担当副参事


室津 欣哉
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不動産評価コースの最終回である今回は、「地価下落局面にあって不動産の価値をどう考えるか」、「資産デフレの克服」という2つの研究課題について各塾生が意見を発表し、講師がコメントを加える形で講義が進行した。不動産の価値については、概ね土地・建物一体の利用価値で考えるべきこと、また資産デフレについては、経済政策や各種制度の見直し、マインドの問題などさまざまな意見が出た。

●不動産の価値の考え方
不動産の評価方法の整理
1.原価法
(更地の場合は適用困難)        
2.取引事例比較法
(収益物件の場合は適用困難)
3.収益還元法
(自用の住宅の場合は適用困難)

土地建物(複合不動産)の評価
1.収益物件の場合
収益還元法              
原価法(土地価格+建物価格)
2.自用の住宅の場合
取引事例比較法
原価法(土地価格+建物価格)

不動産価格について、最近、「二極化」という言葉がしばしば使われる。従来は、原価法中心の評価だったため、隣の土地は同じ価格だったが、利用価値が重視されるようになると、いいものと悪いものとで差が出てくるということである。
「地価が下落している」というのは、原価法の土地価格が下がっているということであるが、不動産を土地・建物一体の利用価値で考えた場合は、あまり関係がない。むしろ、コストが安くなるということである。まず、地価下落と不動産の価値は別だということを認識する必要がある。


●住宅価格について
自宅の場合は、どうして収益還元法が使えないのであろうか。一般的には、住宅は収益性よりも快適性が重視されるから、ということになっている。しかし、前にみたように、ファミリー向けの賃貸住宅を業者が採算上つくれない環境にある、ということが問題なのではないか。今後は、この辺の住宅政策が問題になってくるだろう。


●需要と供給について
資産デフレといいながらも、一部の優良物件については、高い賃料や分譲価格が設定され、実際に借り手、買い手がいる。価格は需要と供給によって決まる、というのが経済学の常識ではあるが、不動産は個別性が強いので、原則が通用しないケースが多い。希少性の高い物件は、それなりの値がつく。供給は、「量」だけでなく「質」も問題だとすると、必ずしも供給過剰とは言えないのではないか。住宅などは、必要なときにむしろ欲しい物件がない、ということのほうが多いのではないか。


●値がつかない物件
東京の都心には、面積が小さく、すぐには事業化できない遊休物件が多い。このような物件を買う人はなかなか現れず、無価値に等しい。こういう物件をどう評価するかも難しい問題である。
かつては、このような物件でも銀行は土地を担保にして融資した。しかし、現実に収益を生まず、買い手のつかない土地は、鑑定評価で価格を出しても意味のない数字になってしまう。デフォルトしなければとりあえず問題はないのだが、万一の場合は10分の1も回収できないような物件ばかりである。
長い間、このような物件に土地担保融資を行ってきた結果、現在のような混乱が生じている。この状態を収拾するには、正攻法では限界があるだろう。相当思い切った経済政策をやるしか道はないかもしれない。虫食いの土地を開発するにしても、事業が成り立つ地域は限られている。全部を救うのは不可能に近い。


●固定資産税の問題
未利用地・低利用地については固定資産税も大きな問題である。固定資産税の評価額は「適正な時価」ということになっているが、実際に値がつかない土地にも公示の70%水準の評価がついている。「固定資産税を上げれば有効利用が進む」という学者もいるが、それも安易な考え方である。実際には、持ちこたえられなくなっても誰も買い手が現れず、弱いものいじめになるだけである。土地資産に関する国民の意識が変化してきている以上、資産課税についても抜本的な見直しが必要であろう。


●収益還元法について
不動産の価値を利用価値、収益価値で考えるのはいいとしても、具体的にどのように収益価格を出すかということになると、まだまだ課題は多い。Cap Rateを何%でみればいいのか、経費をどのようにみるかといった点で悩むケースが多いように思う。
DCF法も有効な手法ではあるが、万能ではない。期中のキャッシュフローをいくら精緻に予測しても、転売価格の現在価値が総額の6〜7割を占めるので、説得力に乏しい。「5年後、10年後に売れる値段が分からないのに、なぜ現在価値が出せるのか」と言われればそれまでである。DCF法は、短期のプロジェクトで、かつ収入、支出がある程度読める場合は有効であろうが、耐用年数の長い不動産にはたして向くのか、という疑問は、多くの実務家が感じているところである。
いずれにせよ、市場が正常化し、
取引が活発になって実際の事例が出てこないと、手法の整備も進まないであろう。


●今後の課題
不動産は、いろいろなものの値段のなかでもいちばんわけがわからないものだろう。数式で、「こうやれば価格が出ますよ」と教えられればいいのだが、そんな単純なものでもない。
一口に評価といっても、「価」が「価格」なのか「価値」なのか、明確に分けて考えている人は少ない。また、自分の出している数字が誰から見たどんな意味合いの価値・価格なのか、よく分からないで評価している人も多い。今後は、こういった定義付けをきちんとしていかなければ、評価額は意味を持たなくなるだろう。
現在の景気低迷の根本原因が不動産の下落にあるのに、不動産の評価は極めて難しいテーマであるだけに、政・官・学も誰も正面から手をつけようとしなかった。今後は、不動産に関する新しい学や、制度について、もっと研究が必要であろう。




第9回不動産評価コース

テーマ/「研究課題について」
コース指導/室津 欣哉(森ビル株式会社不動産鑑定担当副参事)
日時/1999年8月30日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)


室津 欣哉 講義目録
■第23期 '99.4.26
 「地価」と「不動産価格」の違い
■第23期 '99.5.24
 不良市場の実態と投資市場の基盤整備
■第23期 '99.7.5
 住居用不動産の価格分析
■第23期 '99.7.12
 オフィスビルの価格分析
■第23期 '99.8.30
 不動産の評価と今後の課題

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