■不動産の割引率をどう決めるか
不動産市場とファイナンスPart2

山形 浩生 株式会社野村総合研究所リサーチ・コンサルティング部門



山形 浩生
講義一覧▼


不動産投資を判断するベースは、不動産価格、キャッシュフロー、割引率などの数字である。これらの数字を厳密に求めることができ、それを収益還元法の数式に当てはめれば正確な判断ができると考える傾向もあるが、「それは幻想に近い」と山形氏は言う。それぞれの数字の根拠があいまいなので、いくら精緻な計算を尽くしても、結果もまたあいまいである。その現実を、山形氏は米国での不動産投資の歴史と現状など広範な話題を通して明らかにした。

●将来CFと割引率の課題
ファイナンスの立場から見た不動産は単なるアセットに過ぎず、基本的にDCF法(収益還元法)で価値が決まってくるはずだ。しかし、DCF法で必要なのは、将来のキャッシュフローと割引率である。将来のキャッシュフローは、売り上げから経費や公租公課を引いて求めるが、これは事業者に訊くくらいしか手はない。では、不動産の割引率はどうやって決めればいいのだろうか。
資産については、債券、株、不動産の順でリスクが高くなり、期待収益率(割引率)も同じ順で高くなると思われている。不動産がリスキーだとされる理由のひとつは不確定要素の多さである。ビル建設は天候や地盤によって建設期間が左右され、完成後には賃料や空室率の変動が予想される。流動性が小さいことも大きなリスクとされる。しかし、それだけで不動産のリスクが高いと言い切れるのか


●時代で変わる不動産のリターン
不動産のリターンは、時期によって株や債券とまったく異なる動きを見せてきた。70年代初頭まで、米国の不動産はローリスク・ハイリターンのアセットだった。この時期はインフレ率が高く、利回りからインフレ率を引くと株と債券はマイナスになったが、不動産だけはインフレ分を差し引いても、かなり高い利回りになった。
しかし、80年代に入ると、株と債券はそれなりの利回りを保っているのに対し、不動産の利回りは下降してローリスク・ローリターンの商品になった。さらに、90年代に入って景気が回復すると、不動産価格も回復し、そこそこのリスクでそこそこのリターンを望める商品になった。
このように不動産投資に対する評価は時代によって大きく変わってきた。また、ひとつの傾向が生まれると、それが長期に続くことも特徴である。


●米国の利回りに対する要求
米国で開発を進める場合、建設のときはコンストラクション・ローンを借り、物件が完成した時点で保険会社などのパーマネント・ローンに借り替える。金利は時期にもよるが短期のコンストラクション・ローンが20%強、長期のパーマネント・ローンが10%台である。この金利から判断して、アメリカで開発を行う場合は、リターンが10%台後半でないと手が出せないとされる。
外資が日本の物件を買うときには稼働している物件で6%ぐらい、開発から参加する場合には15%以上の利回りを求めるという。「6%」という数字は国債のリターンや不動産のリスクなどから決めるらしい。また、「15%以上」は、米国の開発物件での期待利回りを参考にしているようだ。
日本で使うべき割引率はどのくらいが適切なのであろうか。実際に、割引率を求めるには多くのデータから平均を出さなければならないが、必要なデータがないのは承知のとおりである。


●NCREIFインデックスの問題点
米国のNCREIFインデックスは不動産の収益率に関する指数である。全米の保険会社が集まり、所有する物件のデータを出し、それを基に収益率を求めている。地域・物件タイプ別の指標を四半期ごとに出すなど、非常に便利なインデックスである。
ただし、NCREIFインデックスには問題点もある。対象から区分所有の物件を除外しているため、ほとんどの不動産がパートナーシップによって所有されているマンハッタンの物件については、わずか1件しか事例がない。さらにオーナービルに限られるために、大型のビルも少ない。つまり、地域的な偏りがあり、安めで小型の物件に偏っているわけだ。実際の収益率がNCREIFインデックスより少し高めである可能性は強い。
利回りを算出する際の不動産価格にも疑問が持たれている。鑑定評価額をベースとしているが、実際の成約に近づくと鑑定価格がスルスル変わり、実際の取引価格と同じになっていることが分かった。
また、上昇局面では鑑定価格が低めに見積もられ、下降局面では高めに見積もられる傾向があることも分かった。鑑定士が1年前の水準を参考にしながら価格を算出しているのが原因らしい。
しかし、NCREIFインデックスがないと仕事にならないのも事実である。日本でもこのようなインデックスの整備は必要であろう。


●初期のREITの割引率
いまのアメリカのREITというのは、収益物件を束にして上がりを切り分ける仕組みである。70年代は開発REITというのが乱売されたが、大バブルのあげくに崩壊。90年代に入るまでは、REITということば自体が忌み嫌われていた。 
REITの組合的組織であるNAREITのインデックスによると、最近のREITのリターンは年率9〜10%程度にとどまっている。その理由として有力なのが、REITは既存物件しか買わず、これから大きく伸びる物件が入っていない、という説である。だから安定している代わりにリターンも低いのだろうと考えられる。
初期のREITの割引率はかなりいい加減に決められていた。株式市場のリターン8%をベースにし、不動産だから2%、商業開発だから3%、地域が西海岸だから1%、物件が古いから1%、合計で15%という具合である。それぞれのリスク分のパーセントは経験と言うより勘に近いものであった。


●不動産保有のDiversification
ファイナンスにおいては、分散投資してリスクを下げることも大事だ。株、債券、不動産をどれぐらいの割合で持つかも重要だが、不動産の種類を分散し、地域的にも分散させる必要がある。
国際的に分散する方法もある。しかし、日本と米国とで不動産の収益率が似たようなところに落ち着くのか、ローカルなものだから全然違うのか、よく分からないところだ。


●まとめ
そもそも不動産の収益特性について言えば、未だに分かっていないことが多い。期待収益率も、10年程度で大きく変わっている。指標として期待された、さまざまなデータもかなり問題がある。さらには、それを日本で適用できるかという問題もある。
以上のようなことから、下記のタイプの投資家は不動産投資には向かないだろう。
・短期の投資家
・資産分配を市場にあわせて細かくタイミングをとっていく投資家
・短期の流動性、不動産の特性に落ち着かない投資家
・低迷期を受け入れられない投資家
・厳密なリスク・リターン評価に基づく投資判断をする投資家
また、収益還元法でガチッと不動産価格が決まるというものではなく、何らかの漠然とした範囲くらいなら提示できるのだろうが、それ以上どこまで望み得るのかは、まだまだよく分からない。




第8回不動産評価コース

テーマ/「不動産市場とファイナンスPart2」
コース指導/山形 浩生
(株式会社野村総合研究所リサ−チ・コンサルティング部門)
日時/1999年8月23日
会場/アカデミーヒルズ(アーク森ビル36階)


山形 浩生 講義目録
■第23期 '99.6.7
 経済学から見た不動産市場
■第23期 '99.8.23
 不動産の割引率をどう決めるか

academyhills.com